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社説・コラム

『潮流』 被爆前を写した千枚

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 繁華街の本通り(現広島市中区)周辺で遊ぶ子どもたち。にぎわう見本市会場は、後に世界遺産の原爆ドームとなる。原爆によって壊滅する前の街と人の営みを伝える写真を集め、紙面で紹介しながら中国新聞のウェブサイト「ヒロシマの空白 街並み再現」に掲載している。1月末の開設から約5カ月間で、千枚に達した。

 多くが1930年前後から原爆が落とされる前日の45年8月5日までの撮影だ。取材班の担当記者たちが、市公文書館や広島大文書館など複数の公的機関の所蔵写真を調べ上げ、使用許可を得た。戦時中、空襲に備えて家財道具と一緒に郊外へ持ち出していたなどの理由で焼けずに残り、個人が保管しているアルバムの写真も多数ある。

 特に個人所蔵には、世に出ていないカットの数々が含まれる。被爆者や遺族を訪ね歩き、連載記事の取材・執筆と平行して貴重な一枚一枚を見いだした。読者からの提供も増えている。亡き肉親が写るかけがえのないプリントを手に、尽きない思いを記者たちに語ってくれる遺族もいる。

 アルバムを託されると、細心の注意を払ってページを開き、スキャンして持ち主にお返しする。戦後に土地の区割りが変わったりして、撮影場所の現在地が特定しにくいことも。専門家の協力を得て慎重に鑑定し、グーグルマップ上に配置している。

 写真の中に、郷愁を誘うセピア色の世界が広がる。しかしそれは、理不尽にも45年8月6日の朝に焼き尽くされてしまう市民の日常だ。今も市内に、街の記録と記憶の「空白」があちこちに残る。引き続き読者に写真提供を呼び掛け、断片を埋めていきたい。ヒロシマ平和メディアセンター☎082(236)2801。ウェブサイトはhttps://hiroshima75.web.app/

(2020年6月25日朝刊掲載)

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