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「口伝隊」未来に継ぐ 故井上さんの朗読劇 児童書に 

 作家の故井上ひさしさん(1934~2010年)の朗読劇「少年口伝隊一九四五」が25日、初めて児童書として出版される。原爆で家族を失った3人の少年が、台風に襲われ、放射線被害に苦しみながら、懸命に生きようとする姿を通して、子どもたちに戦争や平和について考えてもらうのが狙い。(増田咲子)

 A5判変型、80ページ。1945年8月6日の原爆投下で新聞も発行できなくなった広島で、少年3人がニュースを口頭で伝える物語。府中市出身のヒラノトシユキさんがイラストを描いた。小学校高学年から読めるように漢字には振り仮名を付けた。

 原爆をテーマにした戯曲「父と暮せば」や「紙屋町さくらホテル」を手掛けた井上さんが、原爆投下直後に中国新聞の記者たちが口伝隊としてニュースを報じた逸話を基に書き下ろした。初演は2008年。

 主人公の少年3人は、列車の復旧状況や塩の配給について伝え歩く口伝隊として懸命に働く。しかし原爆の放射線による急性症状や、翌9月の枕崎台風に見舞われる―との展開。親代わりのお年寄りが「のうなった(亡くなった)子どものかわりに生きるんじゃ」と語り掛ける場面は、今を生きる子どもへの井上さんからのメッセージとも受け取れる。

 朗読劇「少年口伝隊一九四五」を平和学習などのために上演している富永芳美さん(63)=広島市中区=は「ヒロシマの現実や子どもたちの悲しみが描かれている」と指摘。「原爆はもちろん、戦争はいけないということを、じっくり考えながら読んでほしい」と児童書としての出版に期待している。

 講談社、税込み1365円。

(2013年6月3日朝刊掲載)

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