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社説・コラム

天風録 『コロナとヒロシマ』

 敵同士の2人がガソリンに漬かって対峙(たいじ)し、一方は9千本、もう一方は7千本のマッチを持っている―。冷戦下の米ソ核開発競争の例え話。著書「核の冬」で知られる天文学者カール・セーガン博士が40年近く前に語っていた▲それが昔話にならないのが恐ろしい。ロシアのプーチン大統領が核兵器の先制使用も辞さない姿勢を新文書で公にした。米トランプ政権をけん制する狙いに違いない。国際的な約束事を次々ほごにして核軍拡に突き進む米国の態度は確かに目に余る▲だからと言ってロシアまで使用をちらつかせるとは…。悪魔の兵器がもたらした悲惨を知る被爆地の人間としては許せない。被爆75年のことしこそ、想像力の乏しいリーダーたちに実情を伝えたいのに、その機会さえ奪ってしまうウイルスが恨めしい▲密集を避けるため8月6日の平和記念式典は縮小され、ハワイの真珠湾で開かれるはずだった原爆展も延期に。国際会議も例年通りには開けない。何より被爆地に集うこと自体が難しい▲それでも決して諦めまい。核軍拡の冷戦期へ逆戻りしそうなリーダーに一刻も早く核を手放してと粘り強く訴えよう。広島で無残に焼かれた人たちに代わって。

(2020年6月6日朝刊掲載)

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