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[コロナ禍の8・6] 被爆75年 どう平和発信 広島市、感染防止と両立目指す

 広島市は10日に示した8月6日の平和記念式典の概要で、新型コロナウイルスの感染防止と被爆75年の平和発信の両立を目指した。感染防止では、既に示していた規模の大幅縮小に加えて、来場自粛の呼び掛けに踏み切った。平和発信では式典のプログラムの骨格を維持した上で、国連のグテレス事務総長のビデオメッセージの上映を企画しており、さらなる磨き上げを探る。(新山創、水川恭輔)

式典会場

規模縮小 来場自粛促す

 「式典の会場に来ても参列はできないので、来場の自粛を呼び掛ける。インターネット中継やテレビ放送を見るなどして、それぞれの場所で慰霊や平和を願ってほしい」。市民局の橋場忠陽次長は市役所であった記者会見で呼び掛けた。

 市は5月29日、新型コロナの感染防止対策として、式典の参列者席を例年と比べて9割減らし、最大880席にすると表明済み。この日は新たに、式典会場となる平和記念公園(中区)への来場自粛の呼び掛けや、入場規制の範囲と時間の拡大などを打ち出した。

 入場規制の範囲は、南北は元安橋と本川橋を結ぶ公園内の道路と平和大通り北側、東西は元安川と本川に挟まれた中州の大部分とした。規制を始める時間は午前5時と、例年の午前6時半を1時間半前倒し。終了時間は午前9時となる。

 長年、式典への参列を続けてきた久保陽子さん(81)=広島県海田町=は、両親たち家族5人を原爆に奪われた。「いつも式典で生前の家族の姿に思いをはせていた。せめて8月6日のどこかの時間で原爆慰霊碑に参りたい」と言う。

 こうした声に応えようと市は午前5~7時、原爆慰霊碑前を通る一方通行のルートを設ける。コロナ禍の中でも、市民たちの慰霊の時間を確保する狙いだ。

 会場周辺に人だかりができないよう、規制範囲の外周には警備員を立たせて注意を促す。例年は広島国際会議場の2カ所で実施する式典中継と、公園内へのモニター14台の設置は中止。市内の宿泊施設や観光、旅行業者など5団体には、式典への来場自粛を伝えた。

次世代へ

プログラム骨格は維持

 コロナ禍の中で迎える節目の被爆75年に、核兵器廃絶と平和を願う思いを世界や次世代にどう届けるのかは、市にとって大きな課題だった。式典は、松井一実市長による平和宣言や子ども代表の「平和への誓い」など、プログラムの骨格を維持。式典が担うメッセージの発信という役割は、最大限保てるようにした。

 「核兵器のない世界へ向け、為政者の歩みを後押しするメッセージを出してほしい」(松井市長)と期待していたグテレス氏は参列を断念した。市は代わりにビデオメッセージを寄せてもらい、会場のモニターで映し出す仕掛けを打つ。

 式典は例年通り、市のホームページ(HP)を通じて配信する。今後は、1カ月後に迫った原爆の日に向けて、ヒロシマへの注目をどう高めていくかが問われる。市民局の政氏昭夫局長は「会場に来ることができなくても、平和や犠牲者の追悼に思いをはせられる努力を重ねる」と誓った。

(2020年7月11日朝刊掲載)

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