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連載・特集

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <2> さぎ

背景に幾重にも下塗り

 緑青で塗りこめられた背景部分がかすかに隆起し、ところどころ顔料がしたたり、複雑な絵肌を作り出しています。転写的な技法によって偶発的に生まれた形や絵肌を山の連なりに見立てたのでしょうか。飄々(ひょうひょう)としたシラサギの飛翔(ひしょう)がアクセントとして効いています。

 画面を注視すると、中央から下あたりの下地を黒く塗っていることに気付きます。また、上部の山並みらしき描写の部分には、ごく薄く赤色系の下塗りもあるようです。シンプルな絵柄でありながら、その下には幾重もの絵の具の層が存在するのです。

 サギは位里が繰り返し描いたモチーフですが、本作品のように鮮やかな緑色を画面の大半に用いたのは珍しく、異色の作品と言えます。(奥田元宋・小由女美術館学芸主幹 永井明生)

 特別展「墨は流すもの―丸木位里の宇宙」(中国新聞社など主催)は、三次市東酒屋町の奥田元宋・小由女美術館で開催中。8月16日まで。一般千円、男女ペア1800円、大学・高校生500円、中学生以下は無料。8月12日を除く水曜休館。同美術館☎0824(65)0010。

(2020年7月8日朝刊掲載)

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <1> 桜美人図

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <3> 柳暗(りゅうあん)

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <4> 不動

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <5> 自画像

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <6> 原爆―ひろしまの図

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