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連載・特集

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <3> 柳暗(りゅうあん)

よれ・にじみ 斬新な表現

 柳鷺図(りゅうろず)(柳にサギという組み合わせ)は、古くから多くの絵師に好んで描かれてきた画題です。位里は親交のあった画家の靉光(あいみつ)とともに博物館に通い、古画の鑑賞、研究を重ねていました。古典から真摯(しんし)に学ぶ姿勢は、位里も所属した前衛的なグループ歴程美術協会の画家たちにも共有されていました。

 本作品で位里は、実験的な水墨表現によって、斬新で深みのある画面を作り上げました。紙のよれ、墨のにじみとかすれが複雑に交じり合う画面の中に、柳の樹や葉をはっきりと示すような形は見えません。左側の黒々とした墨の塊は、柳の大樹の幹でしょうか。画面を注意深く見れば、下部にユーモラスな後ろ姿のサギもさりげなく描かれていることに気づきます。(奥田元宋・小由女美術館学芸主幹 永井明生)

 特別展「墨は流すもの―丸木位里の宇宙」(中国新聞社など主催)は、三次市東酒屋町の奥田元宋・小由女美術館で開催中。8月16日まで。一般千円、男女ペア1800円、大学・高校生500円、中学生以下は無料。8月12日を除く水曜休館。同美術館☎0824(65)0010。

(2020年7月9日朝刊掲載)

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <1> 桜美人図

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <2> さぎ

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <4> 不動

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <5> 自画像

墨は流すもの 丸木位里の宇宙 <6> 原爆―ひろしまの図

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