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社説・コラム

『記者縦横』 反イージス 見えた覚悟

■防長本社 渡辺裕明

 リーダーって何だろう。新型コロナウイルスへの対応で都道府県のトップの存在感が高まる。小学生のわが子でさえ大阪府の吉村洋文知事の名前と顔がはっきりと分かる。直面する問題は違うが、山口県でも言うべきは言う首長がいる。阿武町の花田憲彦町長だ。

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画に2018年9月に反対を表明。自民党王国の県内首長でただ一人、国策にはっきり異を唱えた。先月に国の計画断念が決まった際の言葉も印象的だ。「リーダーとして早い時期に判断を示し、町民が賛成派と反対派に分かれてやり合うのを避けたかった」

 この約2年間、「交付金ほしさにごねている」などとネットや電話で誹謗(ひぼう)中傷も受けた。身の危険を感じ、自宅に届く自分宛ての郵便物は開封しないよう家族に伝えた。決断した以上は避けて通れない道。反対運動を続けた「町民の会」の吉岡勝会長も「町長の反対表明が一番の支えだった」という。

 地元町長の明確な反対意思を尊重し、国に訴えるのが県の務めではないか―。計画中止が決まる前に反対派住民が村岡嗣政知事宛てに質問状を出した。県の回答は「まだ、国による説明の途中段階。阿武町長の発言はそうした中で現時点の思いを述べられたものと考えています」と何ともつれなかった。計画の頓挫が決まってから知事や同じく配備候補地の萩市長の発言が一転勇ましくなったのをみても、リーダーの覚悟について考えさせられる。

(2020年7月17日朝刊掲載)

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