同行記者が見た教皇訪日 2年にわたるルポ出版
20年7月27日
共同通信記者津村一史さんがルポ「法王フランシスコの『核なき世界』」=写真=を著した。ローマ教皇(法王)フランシスコは昨年11月に訪日を果たし、歴代教皇として初めて保有にまで踏み込んで核兵器を断罪。著者は外遊同行記者団の一員として2年にわたって取材した。教皇の発言の真意をうかがい知る好著だ。
昨年11月の訪日は「焼き場に立つ少年」という1枚の写真から始まる。2017年暮れ、この被爆直後の長崎の写真を教皇は世界中に広めるよう指示し、明けて同行記者団の全員に飛行機の機内で自ら手渡す。これだけでも教皇の本気度が伝わってくる。さらに18年9月には宮崎市の「天正遣欧使節顕彰会」の代表に訪日を示唆して彼らを驚かせた。
史上初めて中南米から選ばれた教皇フランシスコは現場主義の人として知られ、就任後は「欧州中心主義」を打破しようとしてきた。伝統に縛られない多様な価値観に理解を示し、内部の不祥事にも切り込んでいく。ザビエルが創設したイエズス会出身者で初の教皇、という側面も見過ごせない。教皇のバックボーンには分権を重んじるイエズス会の伝統もあるようだ。
教皇は広島、長崎を訪れ、核兵器の保有もまた倫理に反する―と明言した。帰国便の機内では同行記者団に「キリスト教の国々、キリスト教の文化を持つ欧州のある国々は、平和について話し合いながら、武器生産のおかげで成長を遂げてきた。これを偽善と呼ぶ」と踏み込んだ。
さらに機内では原発についても「完全なる安全が保証されるまで、私は核エネルギーを利用しない」と述べた。もはや原発に「完全なる安全」はあり得ない。教皇はあらゆる核エネルギーに否定的なトーンをより強めた。やはり訪日が転機になったのではないかと、著者はみている。
本書はdZERO刊。四六判220ページ、1980円。(特別論説委員・佐田尾信作)
(2020年7月24日朝刊掲載)
昨年11月の訪日は「焼き場に立つ少年」という1枚の写真から始まる。2017年暮れ、この被爆直後の長崎の写真を教皇は世界中に広めるよう指示し、明けて同行記者団の全員に飛行機の機内で自ら手渡す。これだけでも教皇の本気度が伝わってくる。さらに18年9月には宮崎市の「天正遣欧使節顕彰会」の代表に訪日を示唆して彼らを驚かせた。
史上初めて中南米から選ばれた教皇フランシスコは現場主義の人として知られ、就任後は「欧州中心主義」を打破しようとしてきた。伝統に縛られない多様な価値観に理解を示し、内部の不祥事にも切り込んでいく。ザビエルが創設したイエズス会出身者で初の教皇、という側面も見過ごせない。教皇のバックボーンには分権を重んじるイエズス会の伝統もあるようだ。
教皇は広島、長崎を訪れ、核兵器の保有もまた倫理に反する―と明言した。帰国便の機内では同行記者団に「キリスト教の国々、キリスト教の文化を持つ欧州のある国々は、平和について話し合いながら、武器生産のおかげで成長を遂げてきた。これを偽善と呼ぶ」と踏み込んだ。
さらに機内では原発についても「完全なる安全が保証されるまで、私は核エネルギーを利用しない」と述べた。もはや原発に「完全なる安全」はあり得ない。教皇はあらゆる核エネルギーに否定的なトーンをより強めた。やはり訪日が転機になったのではないかと、著者はみている。
本書はdZERO刊。四六判220ページ、1980円。(特別論説委員・佐田尾信作)
(2020年7月24日朝刊掲載)