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「黒い雨」控訴断念を 広島市、厚労省に要望

 被爆後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、国の援護対象区域外で黒い雨に遭い、健康被害を訴える広島県内の原告全84人に被爆者健康手帳を交付するよう命じた広島地裁判決について広島市の松井一実市長は31日の記者会見で、被爆者援護を所管する厚生労働省に控訴しないよう要望したと明らかにした。(明知隼二、河野揚)

 松井市長は、裁判が約4年9カ月にわたり、その間に亡くなった原告もいると指摘。「半世紀以上苦しんできた人たちの切なる思いが裁判で受け止められた。国民の税金であり、行政としてのバランスも大事だが、政治判断で解決してほしい」と説明した。市長と厚労省によると、小池信之副市長が判決言い渡しの翌日の30日、県の担当者とともに同省を訪ね、控訴しないよう求めたという。

 市は県とともに、本来は国の施策である手帳の審査や交付の事務を法定受託事務として担う。原告84人は黒い雨を浴びるなどし、国が手帳の交付対象とする疾病を発症したとして市や県に交付を申請したが、市と県は黒い雨に遭ったのが援護対象区域外だったとして却下。訴訟では被告となった。一方、国が援護対象区域を指定した翌年の1977年から区域拡大を国に求め続けてきた経緯もある。

 控訴期限は12日で、厚労省と法務省、県、市の協議で方針を決めるとしている。松井市長は「国の事務としてやっている立場だが、協議の中で広島の心をしっかり伝えていく」とした。湯崎英彦知事は「国と協議しながら決める必要があるが、引き続き被爆者の立場に立って対応する」などとコメントした。

 加藤勝信厚労相(岡山5区)もこの日の記者会見で「国側の主張が認められなかったと認識している」と判決に言及。今後の方針については、県や市と協議して対応を決めると述べるにとどめた。

原告側の訴えを国は認めるべき 公明・斉藤氏

 公明党の斉藤鉄夫幹事長(比例中国)は31日の記者会見で、広島原爆の「黒い雨」訴訟で原告84人全員を被爆者と認めた29日の広島地裁判決について「(黒い雨を)現実に浴びたという方々の訴えを、率直に国は認めるべきだと思う」との考えを示した。

 斉藤氏は、被爆者認定を巡る同党のスタンスを「国の線引きから外れていても、科学的に放射線の影響があったと認められる場合は被爆者健康手帳を交付するべきだと主張してきた」と説明した。  その上で国が援護対象とする「大雨地域」以外でも黒い雨が降ったとする原告側の主張を認めた判決は「非常に理解できる」と述べた。

 広島市南区に残る市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」については「被爆遺構は少なくなっている。全4棟の保存が望ましい」と改めて強調。山口那津男代表ともに5日に現地を視察することも明らかにした。

(2020年8月1日朝刊掲載)

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