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[コロナ禍の8・6] 平和式典の放鳩中止 広島市 飼い主高齢化も

 広島市は6日の平和記念式典で、市長の平和宣言が終わると同時に実施してきたハトを放つ行事を中止する。新型コロナウイルスの影響でハトの訓練が十分にできない点などを理由とする。ただ、近年は飼い主の高齢化が進み、式典での放鳩(ほうきゅう)数は大きく減ってきている。「平和の象徴」が来年以降の式典で再び空へ羽ばたけるかどうかは定まっていない。

 市などによると、例年は日本鳩レース協会(東京)や日本伝書鳩協会(同)などに所属する市内や周辺の有志が式典前夜、会場の平和記念公園(中区)にある専用のかごにハトを持ち寄る。「ハト番」と呼ばれる市職員が、猫に襲われたりしないよう一晩見張る。

 式典では市長の平和宣言が終わると同時にかごが開く。飛び立ったハトはそれぞれの帰巣能力で飼い主の鳩舎(きゅうしゃ)に戻る。一連の取り組みに飼い主は無償で協力しており、ボランティア精神に支えられているという。

 市は今年、新型コロナの影響でハトが巣に帰るための訓練となるレースを開けていないとして、中止を決めた。高齢化した飼い主が会場に集まるリスクも踏まえた。来年以降の再開は未定で、式典が近づいた段階で可能かどうかを判断するとしている。

 飼い主は、年々、協力が難しくなってきていると指摘する。日本伝書鳩協会中国支部連盟会長で呉支部相談役の細川清さん(75)=広島県熊野町=は「長い歴史があり、会員が高齢化している。市には毎年『ハトの提供は続けたいが集めにくくなっている』と伝えている」と明かす。

 日本鳩レース協会中国地区連盟長の井上良明さん(72)=南区=によると、ハトを飼うブームは東京五輪を控えた昭和30年代に全国で広がった。「一軒家に住む小学生男子の多くが屋根などで飼った」。その後のマンションなどの増加で飼う場所が減り、鳴き声やふんも問題になったという。

 放鳩は1947年の「第1回平和祭」(現平和記念式典)から始まった。平和の象徴として広島商工会議所会頭が10羽を放った。市に記録はないが、中国新聞の報道では55年に500羽、ピークの2000年前後には1500羽が飛び立っている。市によると、昨年は500羽だった。

 日本伝書鳩協会広島支部長の岩田猛典さん(62)=南区=は「放鳩は広島のハト飼いの恒例行事。誇りがある」と強調する。小鳥店を営む被爆2世で、先代の父も協力してきた。少数の場合は手で持って放つやり方があるとして「減少を悲観せず、市民の協力で放鳩する意味をいま一度、考えてほしい」と提案している。(新山創)

(2020年8月2日朝刊掲載)

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