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社説・コラム

社説 核燃料再処理工場「合格」 破綻した政策 撤退急げ

 破綻は何年も前から明らかになっているのに、国はいつまで固執し続けるつもりだろうか。

 核燃料サイクル政策の要となる、使用済み核燃料の再処理工場である。日本原燃が青森県六ケ所村で建設を進めており、それを原子力規制委員会が審査して「合格」と正式に判断した。

 ただ、あくまでも安全対策が国の新たな規制基準に適合していると、技術面で審査したにすぎない。総合的に考えると、どうなるのか。前委員長の田中俊一氏の指摘が参考になる。「核燃料サイクルは、必要性も技術もないなどの問題を踏まえると、現実的には不可能だ」

 今後、無理して道なき道を進めば失うことが多かろう。国は核燃料サイクルの破綻を直視して、撤退の道を探ることこそ急ぐべきである。

 サイクルが完成すれば核燃料を繰り返し利用でき、資源小国の日本のエネルギー自給につながる―。そんな夢を以前は描いていた。しかし再処理して取り出したプルトニウムを大量に使うはずの高速増殖炉もんじゅは深刻な事故が相次ぎ、2016年に廃炉が決まった。研究段階の増殖炉ですら失敗したのだから、しょせんは実現しえない夢だった。固執し続けている先進国は他にフランスぐらいだ。

 もんじゅの破綻で、国は代わりに通常の原発で燃やすプルサーマル計画にかじを切った。しかし東京電力福島第1原発事故の影響で原発への不信感が高まり、再稼働は進んではいない。

 日本はプルトニウムを国内外に約46トン保有している。核兵器にも転用でき、原爆6千発分に当たる量になるという。

 到底使い切れまい。しかも再処理すればするほど、プルトニウムは増えていく。そんなにため込んで何をするつもりかなどと、国際的な懸念をさらに強めかねない。

 コストの面でも問題だ。再処理工場を稼働すれば、総事業費は14兆円近くになるという。不要な金食い虫なら、なぜすっぱりやめる決断ができないか―。

 一つは六ケ所村や青森県との関係という。再処理しないなら持ち込んだ核燃料を県外に搬出する―と約束したからだ。

 電力会社の経営を守るため、との見方もある。使用済み核燃料は今、「資源」として計上しているが、再処理をしないことになれば「ごみ」つまり負債になる。それを避けようと、国は再処理にストップをかけられない、というわけだ。

 そのツケを電気料金として回されるのは国民だ。からくりに気付いて声を上げる政治家もいる。河野太郎防衛相がかつて自身のブログに書いている。「凍結すれば国民負担は4兆円で済むところを、ひとたび稼働させると十数兆円に膨れ上がる…」

 背景として、再処理工場が本当に必要かという議論が極めていいかげんに行われてきたことを指摘している。要は、国の怠慢を政治が見逃してきたのだろう。この状態がいつまでも続くようではいけまい。

 規制委の今回の判断を受け、田中前委員長が原子力行政を批判している。「最もいけないのは、現実に合わない政策を正すことが全然できないことだ」

 もんじゅ廃炉決定の時にサイクルも断念すべきだった。時機を再び逸してはならない。決断は政治の責任である。

(2020年8月4日朝刊掲載)

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