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広島知事「政治決断を」 「黒い雨」訴訟 国に救済求める

 原爆投下後に降った「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を訴える広島県内の原告全84人に被爆者健康手帳の交付を命じた7月29日の広島地裁判決を巡り、被告である広島県の湯崎英彦知事は4日の記者会見で、控訴せず、被害者を幅広く救済する方向で政治決断すべきだという考えを表明した。

 湯崎知事は、国が決めた現行の援護対象区域に関し「限定的な調査の上に成り立ち、物理現象でくっきり線引きできるはずがないのに、あたかも科学的根拠のように言われ、判断のベースとして行き過ぎではないか」と指摘。その上で放射線の影響を疑われる症状があり、黒い雨を浴びた状況と矛盾しないような場合には「幅広く認めていく方向にしてほしい。それはまさに政治決断」と強調した。

 県は同様に被告の広島市と共に、手帳の審査や交付を国からの法定受託事務として担う立場。県、市は判決翌日の30日に厚生労働省へ控訴の見送りを認めるよう求め、協議している。

 手帳交付の可否を争う訴訟では、被告の自治体が敗訴した場合、国と協議して控訴するか否かを決めるのが通例だが、自治体が独自に判断するケースもある。

 大阪地裁が2009年6月の判決で、来日しないことを理由に韓国人被爆者の交付申請を却下した大阪府の処分を違法と認めた際、当時の橋下徹知事は「(却下は)行政の判断として間違っている」として控訴しない方針を表明。厚生労働相からの控訴要請を断ったことも明らかにした。

 広島県は08年、ブラジル在住の日本人の交付申請を却下した県の処分を違法とした広島地裁判決に関し、いったんは国の要請で控訴したが、大阪府などの対応も踏まえ、当時の藤田雄山知事(故人)が09年7月に控訴取り下げを表明した。

 湯崎知事は今回の黒い雨の訴訟で、国が控訴を求めても県の判断で控訴を見送る可能性を問われ「委託者の意思がはっきりしていて、それに反するのが法律的にどうなのかという問題があり、勘案しないといけない」と説明。基本的には国に従わざるを得ないとの認識を示した。(岡田浩平)

(2020年8月5日朝刊掲載)

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