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被爆証言に感銘 子らへ継ぐ2冊 広島の巣山ひろみさん刊行

 広島、長崎への原爆投下から75年。広島市佐伯区の児童文学作家巣山ひろみさん(57)が被爆の実話を題材に児童書と絵本の2冊を刊行した。被爆前の記憶を次代につなぎ、平和への想像力を引き出す。

 中区の千田小の被爆樹木を題材にした絵本は「パンフルートになった木」。原爆に耐えながらも衰弱し、切り倒されたカイヅカイブキが語り手となる。原爆の炎に包まれる場面では「どうして……どうして……どうしてこんなことに!」と訴える。笛のパンフルートに生まれ変わり、児童と平和の音色を響かせる今の姿を丁寧に描く。絵はこがしわかおりさんが手掛けた。

 児童書「バウムクーヘンとヒロシマ」は1919年3月4日、広島県物産陳列館(現原爆ドーム)で、日本で初めてバウムクーヘンを販売したドイツ人菓子職人カール・ユーハイムさんの物語。爆心地近くで育った原爆孤児の証言も絡め、一瞬で奪われたかけがえのない日常の尊さを描いた。絵は銀杏早苗さん。

 巣山さんにとって被爆を題材にした書籍は初めて。広島で生まれ育ったが、家族や親戚に被爆者はいない。「そんな自分が原爆を書いていいのか」と葛藤があった。しかし2年前、取材で被爆者の証言を聞く機会が重なった。「残された時間の中で、年を重ねた被爆者が悲しみや痛みを乗り越えて語る姿に心を動かされた」。両作品の執筆の後押しになったという。

 巣山さんは「今、書くことで被爆者の皆さんの思いを伝えるお手伝いをさせてもらえれば」と話している。「パンフルート―」は少年写真新聞社、「バウムクーヘン―」はくもん出版。いずれも1540円。(鈴中直美)

(2020年8月5日朝刊掲載)

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