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[コロナ禍の8・6] 変わらぬ祈り

 被爆75年の原爆の日を前に、広島市中心部では5日、原爆犠牲者を悼む慰霊式典が各地で開かれた。新型コロナウイルスの感染防止のため、長年続いてきた式典の規模を縮小するなどの影響が出る中、参列した被爆者や遺族たちは平和を祈り、核兵器廃絶への誓いを新たにした。

核兵器廃絶「訴え続ける」 県被団協 前倒しで慰霊式典

 県被団協(坪井直理事長)は、中区の広島平和会館で原爆死没者追悼慰霊式典を営んだ。例年は原爆の日にあり、150人程度が参列していたが、今年は新型コロナの感染防止のために前倒して、規模も時間も縮小。役員の被爆者たち10人が犠牲者を追悼し、核兵器廃絶を訴え続けると誓った。

 祭壇を設け、参列者が黙とうした。箕牧(みまき)智之理事長代行(78)があいさつし、「広島は緑濃ききれいな街へと発展した。しかし、75年たっても核兵器廃絶はできていない」と無念さをにじませた。

 参列者は1人ずつ祭壇に献花。欠席した坪井理事長(95)から寄せられた、死没者を悼むとともに、新型コロナ問題などに対して「ネバー・ギブアップ」と呼び掛けるメッセージも読み上げられた。(水川恭輔)

同胞を悼み誓う反戦 韓国人遺族や留学生ら

 韓国人原爆犠牲者慰霊祭は、中区の平和記念公園内にある慰霊碑前で営まれた。新型コロナの影響で、例年の3分の1程度となる遺族や韓国からの留学生たち約130人が参列し、犠牲者を悼んだ。

 在日本大韓民国民団(民団)県地方本部(東区)が主催。同本部の李英俊(イ・ヨンジュン)団長(58)が、この1年間に亡くなった13人を加えた2773人分の死没者名簿を慰霊碑に納め、全員で黙とうした。駐広島韓国総領事館(南区)の金宣杓(キム・ソンピョ)総領事(55)は「異国の地で原爆に命を落とされた方々を思うと胸が張り裂ける」と述べ、戦争反対を誓った。

 参列した韓国原爆被害者対策特別委員会委員長で被爆者の李鍾根(イ・ジョングン)さん(90)は「熱線にさらされ逃げ惑ったことを思い出した。若い世代に戦争の愚かさを知ってもらい、核兵器が一日でも早くなくなってほしい」と願った。(猪股修平)

復興と発展の記憶も後世に 広島市公務員追悼式

 広島市は、原爆で亡くなった市職員や市議を悼む市原爆死没公務員追悼式を、中区の市役所本庁舎前広場の碑前で開いた。新型コロナの影響で、幹部や市議、遺族など参列者を例年の4分の1となる約50人に減らした。

 黙とう後、松井一実市長は平和首長会議の加盟都市が7900を超えたとしたうえで「人類の住む地球を持続可能にするための価値観を市民社会で醸成するため、為政者の動きを後押ししなければならない」と述べた。

 市によると、市職員と市議計455人が原爆で亡くなった。市議だった祖父が犠牲になった県議の畑石顕司さん(46)=東区=は「被爆体験を証言できる人が減り、記憶を継承する難しさはある。2、3世として広島が復興と発展を遂げたことも後世に伝えたい」と話した。

(2020年8月6日朝刊掲載)

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