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社説・コラム

『潮流』 被爆写真を残す

■報道センター映像担当部長 小笠喜徳

 「ペラッペラ」。その6×6センチ判のネガフィルムを初めて手に取った時の第一印象だ。かつて使っていた35ミリの写真フィルムに比べてあまりに薄く、パリンと割れてしまうのではと不安になった。

 会社の大先輩である松重美人(よしと)さん(2005年死去)が、被爆当日の広島市内を写した5点のネガが市の重要有形文化財に指定された。ネガは当社で保管しており、何度か実物をチェックした。

 あらためて76年も前のネガ保存の難しさを感じている。先輩たちによると、松重ネガの保管は当初、紙に包み防湿効果があるとされた桐(きり)箱に入っていたが、業者の助言でフィルム袋と紙製の箱へ移した。ところが今度は専門家からそれよりも中性紙製の保管ケースに入れ、防湿対策を施して密封すべきだと指摘され、変更した。

 写真フィルムはまだ180年程度の歴史しかなく、長期保存研究は1980年代から本格化したばかり。その手法は変遷を重ねており、今は低温低湿保管が最善とされる。日々劣化が進む中、新たな方法が開発されれば、そのたびに変えていくしかないのだろう。

 被爆により当社に戦前のネガはないが、球団設立以降のカープ関係など貴重なネガが残る。新聞未掲載分も含めてデジタル変換を進めているものの、作業は1カットごとで進行速度は遅い。そもそもハードディスクなどの保存期限も不明確で、余計にオリジナルネガの重要性が高まる。

 フィルム時代の美しい写真は結局、プリントやパソコンで再現されたものだ。もととなるネガさえ残っていれば、新技術による再現性向上も期待できる。

 映像の表仕事が撮影とすれば、保存管理は裏方仕事だ。それが後世に伝えていく重要な業務であることを、松重ネガが再認識させてくれた。

(2021年4月8日朝刊掲載)

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