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連載・特集

老いと担い手不足 苦悩 全国被爆者団体アンケート

 中国新聞社が都道府県の被爆者団体と中国地方5県の地域組織を対象に行ったアンケートで、97団体の回答からは、老いと担い手不足で運営継続に苦労している実態が浮かんだ。被爆2世や地域支援者が活動を引き継ぐ動きはあるものの、将来の展望を描けない団体は少なくない。被爆者の念願だった核兵器禁止条約が発効した被爆76年の今年、核兵器廃絶運動の先頭に立ってきた団体は岐路に立たされている。(久保田剛、小林可奈)

存続岐路 将来展望描けず

広島の瀬野川地区 追悼式 地域で支える形に

鳥取の協議会 支部と分会の事務一本化

 「続けてきた活動や追悼式を絶やすわけにはいかない」。瀬野川地区原爆被害者の会(広島市安芸区)で事務局を務める被爆2世の山野井恵子さん(70)が、地元の中野第二公園に立つ追悼碑を見上げた。多い時は200人を数えていた会員は現在、67人。会をいつまで存続していけるのか、不安を感じているという。

 毎年8月6日の原爆の日を前に追悼式を主催していたが、2013年に地元の各種団体とつくる実行委員会形式に移行した。地域の小中学生の代表が、平和への誓いの言葉を発表してくれる。「次世代に原爆被害を伝え、平和を願う大切な行事。会がなくなっても続けていきたい」と誓う。

 現在、解散や統合の予定があるか―。中国新聞社のアンケートでは今年、14団体(14・4%)が「ある」を選んだ。20年と比べて1団体減ったが、19年からは4団体増えている。

 岡山県原爆被爆者会新見支部(新見市)は本年度末で解散を予定し、「会員の高齢化が進み、会としての活動が難しくなった」とした。石川県原爆被災者友の会は22年4月での閉会を決めた。鳥取県原爆被害者協議会は、事務業務の統一で活動の継続を図ろうと、県内の2支部2分会を22年度、県組織に一本化する。

 具体的な見通しは立っていないながらも、解散や統合を検討中という団体も多い。豊栄町原爆被害者協議会(東広島市)は「2~4年後」、笠岡市原爆被爆者会は「10年後」と記した。

 「ない」と答えたのは81団体(83・5%)だった。

 20年には、向原町原爆被害者友の会(安芸高田市)や御調町原爆被害者協議会(尾道市)など少なくとも4団体が解散した。減少傾向は続くとみられる。

 瀬野川地区原爆被害者の会でアンケートに回答した山野井さんは、選択肢を選ばずに「考慮中」と書き込んだ。自らも老いを重ねる中、ともに活動し、支えてくれる「仲間」の参画を心待ちにしている。

定期的な活動

「できている」69% 「できてない」30%

 被爆者運動は、日本被団協を構成する都道府県組織や各地の地域組織が中心となってきた。定期的な活動が「できている」のは67団体(69・1%)で、2020年の80団体を下回った。

 67団体の具体的な活動内容(複数回答)では、総会などの「定例会議」が79・1%で最も多かった。「学校や地域での被爆体験証言」と「核兵器廃絶に向けた署名集めなどの運動」が各70・1%で続いた。

 被爆者が高齢化する中、被爆の実態を後世に伝える取り組みや、1月に発効した核兵器禁止条約への参加を日本政府に求める署名活動などに力を入れているとうかがえる。「被爆2世との連携と支援」は61・2%、「会員の健康と親睦の維持」は58・2%だった。

 「できていない」を選んだのは30団体(30・9%)だった。理由(複数回答)は「会員の高齢化」が86・7%と突出して高く、「被爆者以外の担い手の不足」が46・7%で続いた。「その他」は43・3%で、新型コロナウイルスの影響を挙げる回答が目立った。

継承 2世に高い期待

 アンケートでは、組織の今後についての考えと、被爆2世の組織の有無について継続的に聞いている。3年間の推移を見ると、被爆2世たちへの期待は高い。

 今回は「2世や遺族たちを加えて存続させる」が最多の47団体(48・5%)を占めた。2020年の43団体から4団体増えた。

 次いで「会員の被爆者がいなくなれば解散・消滅させる」が24団体(24・7%)だった。20年と比べて4団体減。解散や消滅が進んだ結果を反映した。

 「その他」は14団体(14・4%)。東広島市原爆被害者の会は「少なくとも慰霊式だけは続けていきたい」、安佐おりづるの会(広島市安佐北区など)は「会員が継続させる意志を持っている間は続ける」とするなど、できる限り活動を維持したいとの姿勢がうかがえる。「別組織と統合するなどして活動を引き継ぐ」は8団体(8・2%)だった。

 団体の内部または外部に被爆2世の組織があるかの設問では、51団体(52・6%)が「ある」と答え、20年から4団体増えた。「ない」は42団体(43・3%)。このうち3団体は「つくる予定がある」とし、21団体は「つくりたいが担い手がいない」と答えた。

活動 コロナ影響「ある」83%

総会や学校の平和学習中止

 収束が見えない新型コロナウイルスの感染拡大が活動に与える影響を尋ねたところ、81団体(83.5%)が「ある」と回答した。ワクチン接種は進んだが、被爆者団体は重症化のリスクが高いとされる高齢者が大半。感染を避けるため、総会や役員会など対面や人を集めての活動ができないとする団体が目立った。

 慰霊や被爆体験の継承にも影を落とす。岩国市原爆被害者の会は「学校の平和学習を縮小したり、取りやめたりした」。熊本県原爆被害者団体協議会は「慰霊式の開催が不可能」と訴え、岩手県原爆被害者団体協議会は慰霊行事を中止した。

 「ない」は16団体(16.5%)だった。会合をオンラインで開くなどして影響を回避している団体がある一方、コロナ禍前から活動が下火との理由もあった。

(2021年7月29日朝刊掲載)

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