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連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <2> 核インフラ

■記者 金崎由美

再編整備 政策の岐路 予算18兆円 迫る決断


 米国の中央に位置するミズーリ州カンザスシティーを、地元の人は愛着を込めて「ハート(中心)・オブ・アメリカ」と呼ぶ。ここは広島、長崎への原爆投下を命令したトルーマン元大統領の地元。そしてこの街は今、オバマ大統領が核政策を転換するかどうかを試す舞台ともなった。

 高層ビルが並ぶ市街地から南へ約20キロ。小川沿いの一本道を車で走ると、人の背丈ほどのコンクリート壁に囲まれた広大な敷地が見えてきた。内部はうかがえない。制御機器や点火装置など核弾頭の部品のうち85%の製造を担うとされる「カンザスシティー(KC)プラント」だ。

 施設の老朽化などを理由に、2013年までに約12キロ南へプラントを移転する計画がある。それは、総予算が最大2000億ドル(約18兆円)と推定されている全米規模の核兵器施設再編計画の一環。計画はロスアラモス国立研究所など国内8施設を対象とし、より効率的に核兵器を製造する「核インフラ」の整備が目的とされる。

 ゲート前に案内してくれた地元の平和活動家アン・サレントロップさん(57)が顔をしかめた。「KCプラントが移転すれば、さらに何十年間も核兵器を製造できる。税金の無駄遣いよ」

 米政府の核安全保障局(NNSA)は、再編対象のうち核物質を扱わないKCプラントを除く7施設で環境影響を評価。昨年10月、最終報告を発表した。「核インフラ」整備の法的手続きは最終段階に差し掛かった。

 再編計画は核兵器製造能力の維持・強化を意味する。すなわち計画の実行は、「核兵器のない世界を目指す」というオバマ氏の言葉と矛盾する。

 大統領就任式を控え、慌ただしさを増していた1月中旬のワシントン。「ニューアメリカ財団」の会議室に集まった研究者たち約20人を前に、モントレー国際関係研究所(カリフォルニア州)のスティーブン・シュワルツ氏らが、米政府が核兵器の性能維持などに費やす予算規模の調査結果を発表した。

 それによると、国防総省やエネルギー省を中心に、2008年会計年度(2007年10月-2008年9月)の核兵器関連の歳出総額は少なく見積もっても524億ドル(約4兆8000億円)。日本の防衛予算に匹敵する。「国防総省の秘密計画なども含めれば、総額はさらに膨らむ」とシュワルツ氏。

 前政権から引き継ぎ、膨大な予算を伴う核施設の再編。オバマ氏や連邦議会がこの計画をどう扱うかが、超大国の核政策の行方を決める。

(2009年2月12日朝刊掲載)

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