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連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <3> ロスアラモス

■記者 金崎由美

新型核開発の拠点に 計画中止 期待かかる


 米国南西部、ニューメキシコ州の州都サンタフェから軽飛行機で約10分。ロッキー山脈南部の高原地帯に広がるロスアラモス国立研究所は、うっすら雪に覆われていた。

 人類が初めて核兵器を手中に収めた第2次世界大戦中のマンハッタン計画。その舞台として、米国は広島、長崎に投下した原爆をここで開発、製造した。

 リオ・グランデ川を眼下にやり過ごし、研究所の上空へ差し掛かると、同乗者の太い声がヘッドホンから耳に飛び込んできた。「あそこに新しい施設ができる。プルトニウム・ピットを量産するんだよ」。研究所の動きを監視する地元市民団体のスコット・コバック氏(52)が、敷地の一角を指さす。

 ピットとは核弾頭の心臓部となるプルトニウムの塊。かつて製造していたコロラド州デンバーに近いロッキーフラッツ核施設は1989年の環境汚染問題発覚を機に閉鎖された。ロスアラモスの新施設はこれに替わり、年最大80個のピット製造を想定し、建設費は2500億円以上とみられる。全米規模の核兵器施設再編計画の一環だ。

 「核兵器のない世界を目指す」。そう口にするオバマ大統領は、ピット量産計画を変更しないのだろうか-。

 州最大の都市、アルバカーキ。地元の監視団体「ロスアラモス研究グループ」のピーター・ニールズ代表(60)が解説してくれた。「計画はもともと新型核開発と絡んでいた。今懸案の信頼性代替弾頭(RRW)計画につながるんだ」

 米国は冷戦期の核弾頭の「寿命」を約20年とし、ブッシュ前政権時代に「信頼性を保つための在庫の入れ替え」として、RRWすなわち実質的な新型核の開発を進めようとした。しかし、核物理学者らが2006年秋、「ピットの寿命はほぼ100年」との研究結果を出したのを受け、議会は2008、2009両会計年度の関連予算を全額カット。RRW計画は頓挫したと思われた。

 だが、ゲーツ国防長官は昨年10月、「RRWを開発するか、そうでなければ貯蔵核弾頭の性能を確認するため(92年以降行っていない)核実験を再開するしかない」と発言した。ゲーツ氏はオバマ新政権でも引き続き国防長官を務める。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准に前向きで、新型核の開発も明確に否定するオバマ氏。とすれば、ゲーツ氏の起用は「閣内不一致」を生じかねない。ニールズさんらは「ピット製造施設はまだ建設初期。今ならストップできる」と新大統領のリーダーシップに期待をかける。

(2009年2月13日朝刊掲載)

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