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核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <4> 寄稿の波紋

■記者 金崎由美

各国首脳ら相次ぎ賛意 世界対話へ動き拡大


 オバマ大統領があるじとなったホワイトハウスから北西へ300メートル。核拡散防止に取り組む非政府組織(NGO)「核脅威イニシアチブ(NTI)」のオフィスは表通りに面したビルの7階にある。

 NTIは、米紙に「核兵器のない世界」と題して寄稿したシュルツ元国務長官ら4人の活動をサポートする「核セキュリティー・プロジェクト」の事務局を務める。4人のうちの1人、サム・ナン元上院議員はNTIの共同代表でもある。

 寄稿は2007年1月と2008年1月の2回にわたって掲載され、各国首脳や高官が相次ぎ賛意を示すなど反響が世界に広がった。

 「記事を出して終わりではなく、世界規模の対話につなげるため行動したいというのが4人の総意」と担当のコリー・ヒンダーステイン国際局長(35)。最初の掲載直後に発足した事務局は、各国のキーパーソンと直接連絡を取り、賛同を求める作業を続けた。

 さらにヒンダーステインさんは「核不拡散の訴えを軍縮の問題と結びつけ、廃絶に向けた具体的なステップを示した」と内容面の斬新さをアピールする。実現可能で段階的な行動の提案は、核兵器廃絶は決して究極的な目標ではなく、到達可能なゴールだと示した。同時に、廃絶実現に懐疑的な人たちにも、段階的に世界を安全にしていく方策として受け入れられたという。

 やはりホワイトハウス近くにオフィスを構えるシンクタンク米国新安全保障研究所も、核兵器のない世界を「山頂」に見立て、安全保障戦略の観点から「登山道」と呼ぶ工程表を描くプロジェクトを進める。「ベースキャンプ」と名付けた試みだ。

 担当するニラブ・パテル特別研究員は、現在の作業状況を「最初のキャンプを目指す段階で、どれだけ多く複雑な課題があるかを洗い出している。核抑止論はどうなるのか、中国の反応は-などクリアすべき課題は多い」と説明する。今月中にも最初の報告書を出すのが目標という。

 もっとも、こうした試みは、米国が圧倒的に有利な世界状況を維持することが前提であり、あくまで米国の国益を守るための核兵器廃絶論だ、などと批判的にみる団体もある。

 ニューヨークの国連本部前に事務局を構えるNGO「自由と平和のための国際女性連盟」もその一つ。軍縮部門「リーチング・クリティカル・ウィル」スタッフのレイ・アチェソンさん(27)は「核兵器の廃絶は(各国の力関係が対等となるような)大幅な軍縮と同時に語られるべきだ」と指摘する。

米紙への4人の寄稿
 2007年は、すべての核兵器保有国の核戦力削減▽地域紛争の解決に努力▽兵器級プルトニウムや高濃縮ウランの管理-などを提案。08年は、弾道ミサイル発射のための警告・決定時間を長くする▽核拡散防止条約(NPT)順守の監視強化▽包括的核実験禁止条約(CTBT)発効プロセスの開始-などを盛り込んだ。

(2009年2月14日朝刊掲載)

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