×

連載・特集

核兵器はなくせる 第1章 転機の超大国 <8> 核抑止論

■記者 金崎由美

日本への「傘」を意識 軍縮実現のネックに


 ゲート脇にB52戦略爆撃機の巨大な機体が展示されていた。米国のほぼ中央、ネブラスカ州オマハにあるオファット空軍基地。かつて、広島に原爆を落としたB29爆撃機エノラ・ゲイ号を組み立てた場所だ。

 現在は戦略軍司令部。地元反戦団体「平和のためのネブラスカ人」州代表のティム・ライン氏によると、核攻撃や弾道ミサイル防衛のほか、宇宙の軍事利用の指揮も担う。「世界を危険に陥れる場所は同時に、世界から一番狙われる場所なのさ」

 毎年8月6-9日、ゲート前に座り込み、米国の核政策の変化を求めるライン氏たち。今注目しているのは、オバマ政権が年内にもまとめる核政策の全体方針「核体制の見直し(NPR)」だ。オバマ氏が既に核兵器の劇的な削減に言及している点を踏まえ、新NPRの焦点の一つは「核兵器の役割をどう定義するか」とされる。

 もし「核攻撃に対する反撃」と限定的に定義すれば先制攻撃はできない。オバマ氏が大統領補佐官に起用したジョン・ホルドレン氏も「先制不使用」を明確に宣言するよう主張してきた。世界の核の96%を保有する米国とロシアが互いに先制使用しなければ、核を持つ意味は大きく薄らぐ。  だが、政策変更には抵抗も予想される。

 昨年12月上旬のワシントン。戦略軍を率いるケビン・チルトン司令官は核兵器産業やエネルギー省担当者らが集まったシンポジウムの壇上で、新型核「信頼性代替弾頭(RRW)」開発計画の意義を淡々とした口調で訴えた。

 「核抑止力の維持には、核兵器と製造施設の近代化が不可欠。それを怠り、米国の『核の傘』の信頼性が失われたら、同盟国は自前で核兵器を開発しようと考えてしまう」。日本を意識した発言とみられる。

 全米科学者連盟の核兵器専門家ハンス・クリステンセン氏(47)もワシントンでこんな話をよく耳にするという。「米国が核兵器をどれだけ減らすか、日本の政府関係者は随分気にしている」。日本にとって米国の核軍縮は「核の傘」の弱体化につながり、「先制不使用」を明言すれば北朝鮮を増長させる、といった懸念である。

 クリステンセン氏は反論する。「核兵器でなければ日本を守れないという前提がおかしい。通常戦力で十分だし、現実的だ」

 核兵器廃絶を訴えると同時に、米国の核軍縮の行方に気をもむ。そんな自己矛盾を抱える限り、被爆国の訴えは説得力に欠け、廃絶への重い扉をこじ開ける原動力とはなり得ない。

(2009年2月20日朝刊掲載)

この記事へのコメントを送信するには、下記をクリックして下さい。いただいたコメントをサイト管理者が適宜、掲載致します。コメントは、中国新聞紙上に掲載させていただくこともあります。


年別アーカイブ