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連載・特集

核兵器はなくせる 第4章 NATO・冷戦の遺物 <4> 新戦略概念

■記者 金崎由美

戦術核の存廃が焦点 市民の働き掛け必要

 北大西洋条約機構(NATO)が60周年の節目に首脳会議を開いたフランス・ストラスブールは物々しい空気に満ちていた。

 要所をバリケードで封鎖した機動隊が若者集団と一触即発のにらみ合い。アフガニスタン政策などを批判し、NATO解体を訴えるデモ行進は、一部の過激派がホテルに放火する騒ぎに発展した。

 同じ4月4日、混乱から隔絶された町はずれの会議場で、NATOの盟主、オバマ米大統領が首脳会議後の記者会見に臨んだ。

 「私たちは、新しい戦略概念をつくることで合意した。現在の課題に応じてNATOを近代化させるため、非常に重要だ」。太く歯切れのいい声が響く。

 戦略概念は、核政策を含むNATOの長期方針。1999年に更新された現文書を1年余りかけて書き換えるという。会見場を埋めた各国の記者との質疑はもっぱら、NATO軍が展開するアフガニスタン問題に集中した。

 だが、新戦略概念の策定は「NATOの核」を見直す好機にもなる。現戦略は、米国が欧州に配備する戦術核(核爆弾B61)を「必要最小レベルで維持する」とする。一方、B61は軍事的に不必要との見方も広がりつつあり、新戦略がその全廃へと踏み出す可能性はゼロではない。

 ベルギーの首都ブリュッセル。NATO本部に足を踏み入れると、加盟したばかりのアルバニアとクロアチアを含む28カ国の国旗が並んでいた。

 応対したジェームズ・アパスライ報道官(40)が語る。「核兵器は米国が厳重管理し、非保有国への技術移転もない。核拡散防止条約(NPT)を完全に順守し、問題はない」

 こうも続けた。「核兵器はすでに大幅に削減している。21世紀の安全保障を考える際、削減が中心議題になるとは考えにくい。重要な政治シンボルであり、撤去しようという声もあまり聞かない」

 NATOの核兵器を全廃する動機も意欲もないのだろうか。

 これに対し、「核兵器に頼らない安全保障の確立に向け、市民から議論を働き掛ける必要がある」と説くのは英国人の安全保障専門家イアン・デービス氏(47)。3月にブリュッセルで討論会を共催し、プロジェクト「NATOウオッチ」を始動させた。新たな戦略概念に盛り込むNATOの将来像について提言を打ち出す考えだ。

 記者会見を終えたオバマ大統領はチェコへ飛んだ。翌日、原爆投下国としての道義的責任を明言したうえで、核兵器のない世界への決意を高らかに宣言した。歴史に残る「プラハ演説」だ。だが、NATOの核をどうチェンジするか、具体的な構想は聞かれなかった。

(2009年6月18日朝刊掲載)

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