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連載・特集

核兵器はなくせる 第5章 英仏・見えぬ標的 <1> 自己矛盾 

■記者 金崎由美

廃絶提案 原潜は更新 仏艦と衝突 募る不安

 英国とフランスはそれぞれ推定160個、300個の核兵器を保有する。人類の生存を脅かすに十分な数を持ち続けてきたのは、そろって「核抑止力の保持」が理由だ。しかし、周囲に敵が見当たらない現在、その論理はまだ通用するのか。ほころびはないのか。核削減、さらに「ゼロ」へと至る条件を現地で探った。

 スコットランド南西部のファスレーンに、英国のクライド海軍基地がある。射程7400キロの核弾道ミサイルを積む原子力潜水艦4隻の母港だ。高台に上ると、クライド湾と基地の一部が見渡せた。

 ところが、その原潜の姿が見えない。「通常1隻が停泊しているはずなのに」。同行した地元の基地ウオッチャーが首をひねった。今年2月、大西洋でフランスの原潜と衝突事故を起こした影響かもしれないという。

 英国の核戦力は、原潜が搭載するミサイルの名から「トライデント」と称される。4隻の原潜はローテーションを組み、24時間365日、必ず1隻は核兵器を積んで航海している。旧ソ連を警戒した冷戦期から粛々と続く任務という。衝突事故はその中で起きた。

 「損傷は最小限だった。原潜は衝突にも強いと証明された」。ファスレーンから約40キロ、スコットランド最大の都市グラスゴー。地元反核団体が開いた討論会で、ティム・ヘア元国防省核政策局長が信頼性を強調した。

 聞いていた地元のマリー・ミリントンさん(61)は反発する。「ラッキーだっただけ。核兵器や原子炉が破損したら…。基地がある限り、私たちは常に危険と隣り合わせよ」。新聞が報じるまで国防省が事故について口を閉ざしていたことも、不信に拍車をかける。

 英政府は、老朽化した原潜の更新計画を進めている。実現すれば少なくとも2050年代までは、現在の規模で核戦力を維持する環境が整う。

 一方で政府は今年2月、「核の影を取り去る―核兵器廃絶への条件づくり」と題する報告書を発表した。

 「一般的で新味のない核軍縮提案なんて聞きたくない。自国の核戦力について、どんな決断をするかですよ」。英国最大の反核団体「核軍縮キャンペーン(CND)」のロンドン市内の事務室で、ブルース・ケント副代表(79)が語気を強めた。核抑止力の維持と核兵器の廃絶とを同時に口にする政府の自己矛盾を指摘する。

 核兵器の保有数が少ないこともあり、5大国のうちでは「核を放棄する条件が最もそろっている」とされる英国。新たな原潜を建造し、向こう40年以上も核抑止力に頼り続けるのか否か、近づく政治決断の行方を内外が見守る。

(2009年6月21日朝刊掲載)

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