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連載・特集

核兵器はなくせる 第5章 英仏・見えぬ標的 <2> 独立独歩 

■記者 金崎由美

抑止力「究極の保険」 仏戦略、米英と一線

 北大西洋条約機構(NATO)のデホープスヘッフェル事務総長が満面の笑みを投げ掛けた。「NATOの軍事機構に全面復帰するというフランスの決定を、われわれは歓迎する」

 4月4日のフランス・ストラスブール、NATO発足60周年の節目にあった首脳会議閉幕後の記者会見。事務総長の隣に立った開催国のサルコジ大統領は、大げさな身ぶりを添えて笑顔で返した。

 1949年のNATO結成時から中心メンバーだったフランスは66年、米国や英国が主導する体制に反発し、軍事機構から脱退していた。今回の復帰宣言はセレモニー的な意味合いが強いとはいえ、NATOの結束を強く内外に印象づけた。

 ただ、厳密には「全面復帰」ではない。NATOの主要40委員会のうち、核政策に関する唯一の合議機関である核計画グループ(NPG)に、フランスは所属しないからだ。

 「わが国の核抑止力は決して誰からもコントロールを受けない。それが復帰の条件の一つだったんだ」。パリ中心部にある国防省で、核政策の担当者はきっぱりと言った。

 復帰によってNATOでの発言力を強める。同時に、核戦力は独立性を保つ―。したたかな意図がうかがえる。それは、米国と密接な関係を保ち、有事の際にはNATOの核戦力の一翼を担う英国とは対照的だ。

 パリ市内の静かな住宅街にあるシンクタンク「フランス国際関係研究所」を訪ねた。なぜNPGに入らないのか、ドミニク・ダビッド副所長(59)に問うと、たちまち一笑に付された。

 「旧ソ連の脅威がなくなり、いまやNPGの実質的な存在意義は薄い。しかもNATOの核戦略は米国の手に握られている。そこに組み込まれても、フランスに益などない」

 ドゴール大統領が1960年代に推し進めた独立独歩の外交・防衛政策を誇りとするフランス。ダビッド氏は「それを支えたのが核だ。核兵器を持ったからこそ国際的なパワーを得られた。フランス人はそう考える」と説明する。核抑止力への揺るぎない信仰は、歴史に裏打ちされているというわけだ。

 フランスの「核のボタン」を預かるサルコジ大統領。昨年3月、国防政策について演説し、航空機に搭載する核戦力の削減など核軍縮への独自の取り組みを表明した。

 同時に核戦力の近代化への強い意志を示した。このとき大統領は「核抑止力はわが国の独立性を守る究極の保険だ」とも言い切っている。

(2009年6月22日朝刊掲載)

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