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連載・特集

核兵器はなくせる 第5章 英仏・見えぬ標的 <6> 地元の力

■記者 金崎由美

非核目指す自治政府 原潜更新に反対動議

 中世から続く世界遺産の街並みを抜けると、モダンな建物が現れた。英スコットランドの「首都」エディンバラ。自治権の拡大に伴い、1999年に発足した自治政府の議事堂だ。

 ブルース・クロフォード議会担当相(54)が一室に招き入れてくれた。「核兵器のないスコットランドがどんな姿になるか、現実的な検討を続けている」

 自治政府は域内に、英国の核ミサイルシステム「トライデント」を積む原子力潜水艦4隻の母港を抱える。そのクライド英海軍基地から原潜や核兵器が撤去された場合、雇用や地元産業にどんな影響があるのか、自治政府は2008年4月、外部の有識者による調査委員会を発足させた。今夏にも報告書がまとまる。

 核関連の任務がある基地内の従事員は現在、約150人という。「核を維持する膨大なコストを地域振興に振り向ければ、はるかに上回る雇用が創出できる。スコットランドから核がなくなっても地域経済がぐらつくことはない」。クロフォード氏の確信だ。

 自治政府を掌握する中道左派のスコットランド国民党(SNP)は、英国からの独立や国土の非核兵器化、核抑止力に立脚する北大西洋条約機構(NATO)と距離を置く安全保障を公約に掲げる。スコットランドは1707年まで独立国で、隣国イングランドと戦火を交えた歴史も背景に、核の「押しつけ」に反対を訴えてきた。

 「同じ党でもウエストミンスター(英国議会)とスコットランド自治議会でスタンスは異なる」と明かすのは、自治議会でSNPに次ぐ勢力である労働党のマルコム・チザム議員(50)。同じ労働党ながら、ブラウン英政権の核政策に異を唱える。

 実際に2007年6月、自治議会は「トライデント」更新への反対動議を賛成71、反対16、棄権39で可決した。老朽化した原潜を置き換える新規建造と核戦力システムの延命に、過半数が「ノー」を突きつけた。

 しかし英国の首都ロンドンとの関係は複雑で微妙だ。教育や司法分野では自治議会に立法権があるが、外交や安全保障は例外。すなわち、トライデント更新の可否を決める最終権限は、エディンバラにはない。

 そんな現状を認めた上でクロフォード氏は口調を強めた。「私たちはスコットランド人のために声を上げる義務がある。英政府はそれを聞き入れ、21世紀の安全保障に核兵器は必要ないという現実に向き合うべきだ」

 その声がロンドンにどれだけ届くかは未知数。だが、自治意識の高まりと世界の核軍縮機運を「追い風」と感じるという。

(2009年6月27日朝刊掲載)

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