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連載・特集

核兵器はなくせる 第5章 英仏・見えぬ標的 <7> 近づく選択

■記者 金崎由美

軍縮議論再燃の兆し 核ゼロへ行動のとき

 世界規模で広がる経済危機が、英国の核兵器を揺るがしている。

 「ブラウン首相の表明を高く評価する。民意を反映した変化だと思うよ」。労働党のナイジェル・グリフィス下院議員(54)が党首の決断を歓迎する。

 核兵器保有国トップのその表明は今年3月のことだ。「必要な抑止力が保持でき、同時に多国間の軍縮が進む中で、弾頭をさらに減らすことが可能となればその用意がある」。これまでになく核軍縮に踏み込んだ発言だった。

 英政府は公式には、核ミサイルを搭載する原子力潜水艦4隻すべてを新規建造して置き換える「トライデント更新計画」を撤回してはいない。

 英国下院も2007年3月、計画を支持する動議を可決した。与党の労働党から約90人が造反し、原潜基地があるスコットランドを地盤とするグリフィス氏も下院ナンバー2の院内副総務を辞して反対に回った。それでも賛成409、反対161の大差だった。

 しかし、それから2年余り。いったんゴーサインを出した議会に議論再燃の兆しが出始めている。原潜だけでなく核弾頭やミサイル交換も含めれば巨費が見込まれ、疑問の声が上がっているためだ。

 「250億ポンド(3兆9375億円)になるだろう。再び議会に問えば、結果は必ず逆になる」。国会を象徴する時計塔「ビッグベン」に面した議員会館で、議会第3党の自由民主党で「影の国防相」を務めるニック・ハーベイ下院議員(47)がまくしたてた。

 政府は14年までに潜水艦建造に伴う契約を完了する方針で、今年9月には第1弾となる設計関連の契約案件が控えている。議会反対派はその延期を主張。核戦力の保持に肯定的な保守党のキャメロン党首も5月、予算見直しを促す発言をした。

 核兵器を放棄できるかどうかの分岐点が近づく。

 ただ「第三の道」を模索する動きもある。ハーベイ議員によると、潜水艦の数を3隻か2隻に減らす、東西冷戦の時代から続く原潜の24時間パトロールを見直す、原潜に弾道弾ではなく中距離の巡航ミサイルを積めば安価に済む、などの議論が出ているという。

 これに対し、あくまで更新反対を訴えるのは軍縮専門家のレベッカ・ジョンソンさん(54)。「米国やロシアに先駆けて核兵器がゼロにできるのに。英国に欠けているのは、政治的な意思とリーダーシップよ」

 保有国では最も「ゼロ」に近いとされる英国。新時代への一歩を踏み出すかどうか、自らの行動で示すときだ。

(2009年6月28日朝刊掲載)

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