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連載・特集

核兵器はなくせる 第6章 揺れる北東アジア <2> 傘の強化

■記者 林淳一郎

米韓首脳 初の文書化 基地の町 根深い不安

 頭上をごう音がかすめた。次々と飛び立つ戦闘機に身がすくむ。韓国の首都ソウルから南へ55キロ。田畑が目立つ平沢(ピョンテク)市郊外に、米軍の烏山(オサン)空軍基地が広がっていた。北朝鮮向け偵察機などを備え、東アジア有数の規模を誇る。

 東西冷戦期、在韓米軍基地の数カ所に核兵器が配備されていた。地対空ミサイル用などピーク時に950個近くの戦術核弾頭があったとされ、米シンクタンクのノーチラス研究所によると、烏山を含む14カ所には核兵器事故対策班も置かれていたという。

 しかし冷戦終結後の1991年12月、韓国と北朝鮮は「朝鮮半島非核化」の共同宣言で合意。南北融和ムードに歩調を合わせ、米国は韓国から戦術核を完全撤収した。以来、米国は被爆国日本と同様に、韓国へ「核の傘」をさしかける。

 そして今。「隣国が核兵器を持とうとする以上、彼らよりも強い核抑止力が必要よ」。ソウルの国会議員会館。野党第2党である自由先進党の朴宣映(パクソニョン)議員(53)は「傘」の拡大強化を訴える。

 実際に首脳も動いた。今年5月の北朝鮮の核実験を受け、李明博(イミョンバク)大統領は6月16日、オバマ米大統領と会談し「核の傘」の確約を要請。口約束だけとせず、首脳レベルでは初の文書にもした。

 朴議員はその文書にこう注文する。「傘の骨組み、かぶせ方が見えてこない。北朝鮮の危険度に応じ、米国はどの核兵器をどう使うのか。具体的に示さないと韓国民は安心しないわ」

 大統領府の外交安保諮問団メンバーを務める高麗大学校(ソウル)の金聖翰(キムソンハン)教授(48)=国際政治学=も核抑止を信じる一人。ただ「核の傘は北朝鮮の核兵器使用を抑制する機能はあるとしても、核開発を中止させる力まではないだろう」と、核に核で応じる限界を冷静に見つめる。

 だが、傘の効果がどの程度であれ、基地の町で暮らす人々の不安の根は深い。

 現在、米軍は韓国内の基地再編を進める。点在する大半の基地を平沢・烏山をはじめ、南部の大邱(テグ)や釜山(プサン)の2地域に集約し、新たな戦略拠点化を図る構えだ。

 平沢市で反基地運動に取り組む市民団体「平沢平和センター」の姜相源(カンサンウォン)所長(39)は言う。「北朝鮮と米国が対立する限り、基地の町に住む私たちは核の標的となる恐怖に向き合わざるを得ないんだ」

 「核の傘」はその不安までは解消してくれない。

(2009年7月12日朝刊掲載)

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