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連載・特集

核兵器はなくせる 第6章 揺れる北東アジア <3> 被爆国政府

■記者 金崎由美、岡田浩平

抑止力維持に固執 「二重基準」世界は冷淡

 核兵器のない世界への努力を誓ったオバマ米大統領のプラハ演説から約3週間後の4月27日、中曽根弘文外相は東京都内で「(核兵器)ゼロへの条件」と銘打って講演した。

 「わが国には(広島、長崎の)2都市で起こった惨劇を、事実として全世界の人々に伝える使命があります」

 廃絶への挑戦を「原爆投下国の道義的責任」と言い切ったオバマ大統領に対し、中曽根外相は「被爆国の使命」との表現で呼応した。外相は廃絶への「11の指標」として、中国に核軍縮を強く促し、弾道ミサイル規制の必要性にも触れた。

 だが、さほど新味にあふれた内容とは言えず、日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(77)は「廃絶に取り組むとあらためて宣言したのは評価したい」と淡々とした受け止め。むしろ中曽根外相のこんな念押しに、首をかしげる人もいた。「東アジアの状況にかんがみれば、わが国にとって日米安全保障体制の下における核抑止力を含む拡大抑止が重要であることは言うまでもありません」

 廃絶を口にし、同時に米国の強大な「核の傘」に自国の安全保障を頼る。そんな核兵器をめぐる被爆国政府の二重基準に対し「各国は気付いている。幻想は抱いていない」と日本原水協の高草木博事務局長(65)は国際社会の視線を解説する。

 日本は1994年から15年連続して国連総会に「核廃絶決議案」を提出。米国はブッシュ政権が発足した2001年以降は反対を続けるものの、全体では賛成多数で採択され続けている。「決議はすでに一定の評価を得た施策を並べているだけ。核の傘に響かない程度に、米国と少しだけ違うことを言っているにすぎない」と高草木氏は指摘する。

 1カ月後の5月27日、都内の大学構内にギャレス・エバンズ元オーストラリア外相の力強い声が響いた。核軍縮に関心を寄せる市民団体のメンバーや専門家約30人を前に、早口でまくしたてる。

 「日本は核兵器が大好きですよね。化学や生物兵器、通常兵器による攻撃の抑止にも『核の傘』が必要だと考えるのだから」

 来春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けて報告書の取りまとめを目指す「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)。川口順子元外相とともに共同議長を務めるエバンズ氏は、核軍縮への逆風となりかねない被爆国の姿勢をもどかしがる。

 外務省軍備管理軍縮課の森野泰成課長(44)は断言する。「核兵器廃絶は、日本の安全保障と両立する現実的な道筋でなければならない。核抑止力を必要とするのは決して矛盾ではない」

 今、政府を揺るがす核持ち込みの「密約」問題。核抑止力が必要だというのなら、「非核三原則」の国是自体が空虚に聞こえはしないか。

(2009年7月13日朝刊掲載)

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