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連載・特集

核兵器はなくせる 第6章 揺れる北東アジア <5> 核武装論

■記者 吉原圭介、金崎由美

論調拍車 現実には壁 廃絶の訴え自己否定

 会場をいっぱいにした約300人をどっと沸かせた。「ご紹介をいただきました危険人物の田母神(たもがみ)でございます」  6月20日、廿日市市の文化ホールさくらぴあ。歴史認識に関する政府見解を否定して航空幕僚長を更迭された田母神俊雄氏(60)の講演が始まった。

 日本の核武装を主張する1人。この日はその点には触れなかったが、8月6日には広島市中区で「ヒロシマの平和を疑う」と題して講演する。原爆の日に何を話すのかを記者が問うと、「核のことも触れますよ。絶対に使われることはないが、持っているかどうかで国際社会での発言力は天と地ほど違う。持っていた方がいいんだ」と断言した。

 核兵器開発を進める北朝鮮に対抗するため被爆国も核武装をとの論調が一部で強まっている。民生用とはいえ大量のプルトニウムを蓄える日本は「核兵器の潜在的保有国」と国際社会からみなされることもある。

 核武装は可能なのだろうか。

 立命館大国際平和ミュージアムの安斎育郎名誉館長(69)=原子力工学=は「その気になれば半年から3年でできる」とみる。「プルトニウムの兵器利用はそう簡単ではなく、米国がノウハウを提供するはずもないが、単純な原爆なら核実験は不可欠ではない」

 京都大法学部の浅田正彦教授(51)=国際法=は「国際ルールを破って保有すれば、北朝鮮のように経済制裁が課せられる可能性がある」と指摘する。

 国際ルールには核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)、日米原子力協定などがある。NPT脱退は「異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合」(第10条)に限られる。CTBTは未発効とはいえ、既に日本は批准した。核実験をするには、国際社会にほとんど前例がない批准の撤回手続きが必要になる。

 「例えばNPTを脱退すると原子力発電の燃料のウランが供給されなくなり、既存の燃料は返還を求められるだろう。原発が止まれば市民生活に大きな影響が出る」と浅田氏。

 北朝鮮は、そうした国際社会からの反発も国民の犠牲も覚悟のうえで核開発を進めているとみられる。そして、対話による解決が困難視されることも、日本での「核には核で」の論調を後押しする。

 「日本は核不拡散の分野で貢献してきた実績もある。国際的な信頼と引き換えに核保有を考えるかどうかは、ひとえに政治意思の問題」と、日本原子力研究開発機構・核不拡散科学技術センターの直井洋介技術主席(50)。

 日本の核武装は、得るもの以上に失うものが大きい。何より被爆国として、核兵器を持たない選択をしたうえで廃絶を訴えてきた戦後の歩みと説得力を自己否定することにもつながる。

(2009年7月15日朝刊掲載)

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