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連載・特集

核兵器はなくせる 第8章 米国は今 <3> CTBT

■記者 金崎由美

混迷打開 主導役担う 10年ぶり表舞台復帰

 10年ぶりの核超大国の復帰を国際社会は歓迎した。9月下旬、国連本部であった包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議。1999年の第1回会議に出席して以降、欠席続きだった米国代表の姿がそこにあった。

 CTBT機関準備委員会(ウィーン)のティボール・トート事務局長が国際社会の声を代弁する。「米国の努力が8カ国の姿勢に影響するのは間違いない」。8カ国とは米国と同様に条約の発効要件国でありながら批准していない中国、インドネシア、イラン、イスラエル、エジプト、さらに署名もしていないインド、パキスタン、北朝鮮を指す。

 「過去10年間は政治的に逆風続きだった」。トート事務局長の回顧が、世界の180国以上が調印しながら発効のめどが立たないCTBTの混迷ぶりを物語る。

 象徴がまさに米国だ。クリントン政権時代の1996年に署名したものの、共和党が多数派を占めていた上院がちょうど10年前の1999年10月13日に否決し、批准に失敗した。続くブッシュ前政権は臨界前核実験を強行し、発効促進会議をボイコット。CTBT機関準備委への拠出金も滞納するなど、CTBTを「たなざらし」にしてきた。

 一方で皮肉なことに、多種多様な核兵器を開発してきた米国こそが、核実験の監視に必要な技術と経験にも長じている。だからこそ今回の10年ぶりの発効促進会議で「ここに戻って来られてよかった」と、米国代表のクリントン国務長官は国際社会が寄せる期待を意識しながら演説し、「核不拡散の新たなリーダーシップを担う」と高らかに宣言した。

 こうした変化の伏線は今年初め、オバマ政権の誕生直後にさかのぼる。「ブッシュ前政権下ではCTBT関係者との接触や一部の会議出席は禁じられていた。それが一転して解禁になったんだ」と米政府関係筋が明かす。

 日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター(東京)の一政祐行研究員によると、新政権発足の翌2月には米国の核専門家たちがCTBT機関準備委の「現地査察」作業部会に復帰する動きもあったという。

 準備委は地球規模で核実験の探知体制を構築するため、地震波や大気中の核物質などの監視システムを着々と世界中に張り巡らしている。現地査察も既に訓練段階に入った。

 4月のプラハ演説でCTBT批准への努力を誓ったオバマ大統領。批准に必要な上院の3分の2の賛成を取り付け、「失われた10年」を取り戻すことができるか。世界の関心がその一点に集まる。

(2009年10月16日朝刊掲載)

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