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連載・特集

核兵器はなくせる 第8章 米国は今 <4> 批准の行方

■記者 金崎由美

上院承認へ調整続く CTBT 先送り論も

 包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をめぐり、米議会関係者は今、総じて口が重い。来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議までに米上院が批准を承認するか否かは微妙な情勢。さらに、その結果は再検討会議の行方を含め、世界の核不拡散体制を大きく左右するとみられているからだ。

 批准の承認には少なくとも、上院100議席の3分の2に当たる67票が必要となる。政権与党の民主党は現在60議席。造反がなくても7票足りず、共和党の切り崩しが欠かせない。

 しかも上院は1999年、賛成48、反対51と過半数にも届かず批准に失敗した経験がある。「前回反対した議員に、今回賛成しても矛盾にはならないと納得してもらう。それには周到な根回しが必要だ」と首都ワシントンの議会関係者。二の舞いは避けたいと、慎重姿勢を崩さない。

 1999年の失敗は「米国は核実験をしなくても保有核の性能を保てるのか」「CTBTの枠組みでどれだけ他国の核実験を探知、検証できるのか」などの疑念が原因だったと関係者の分析は一致する。

 これを受け別の議会関係者が、疑念をぬぐう説得材料の一つを明かす。「核実験せずに核弾頭の性能を保つ保有核管理計画(SSP)は実績を重ねてきた。2度の北朝鮮核実験を通して探知能力も実証された。技術が進歩し、10年前とは状況が大きく違う」

 クリントン国務長官が9月のCTBT発効促進会議で批准への意気込みを語った際、「われわれの核兵器の安全性や信頼性を損ねることなしに」と付け加えたのは国内向けメッセージでもあった。

 しかしオバマ政権には今、核問題以外にも障壁が立ちはだかる。温室効果ガスの排出を規制する地球温暖化対策法案、国民の保険加入率を広げる医療保険改革法案…。「議会審議はこれらの懸案で手いっぱい」「CTBTの本格議論はこれから」との声が漏れる。

 民間組織「核脅威イニシアチブ」のスティーブ・アンドレアセン氏は「ロシアと年内に第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約で合意すれば、その批准手続きが先決だろう」。CTBTは先送りになるとの見方も広がる。

 民主党は今後、オバマ氏と大統領選で競ったマケイン氏ら共和党穏健派を軸に支持を広げていくとみられている。その戦略の鍵を握るダイアン・ファインスタイン上院情報特別委員長(民主党)は「厳しい闘いになるだろう。だが、批准のためならどんなことでもする」。駆け引きを続ける構えだ。

(2009年10月17日朝刊掲載)

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