×

連載・特集

核兵器はなくせる 第10章 火種の中東 <2> あいまい政策

■記者 吉原圭介

保有の有無 明言せず 「国民の安心感醸成」

 イスラエル外務省はエルサレムの丘に立つ。15分ほどのセキュリティーチェックを受け、近代的なビルに入った。アンディ・デービッド副報道官に単刀直入に聞いた。

  ―イスラエルは核兵器を持っていますか。
 「われわれの立場は明確だ。この地域で、核兵器を存在させる最初の国にはならない」

  ―え? 持っていないという意味ですか。
 「言った通りだ」

  ―持っているとも言わないのですか。
 「イスラエルは平和が大事だと思っている。同時に自衛も大切だ」

  ―あいまいにすれば平和になるのですか。
 「残念ながら建国以来、イスラエルは隣国と平和的な関係を持ったことがない。そのような日が来るのを待ち望んでいる。そのためにはいかなる犠牲もいとわない」

  ―どんな状況になれば核を放棄しますか。
 「持っているとは言っていない」

  ―イスラエルは間違いなく保有していると国際社会は思っています。
 「それは認識している」

 イスラエル政府はこれまで、核兵器保有を明言したことがない。その有無は「あいまい」にしたままだ。

 テルアビブにある国家安全保障研究所のエミリー・ランダウ研究員が政府の意向を代弁する。「国民が安心して生活するためです」。保有国と宣言すれば、敵対する周辺国は核攻撃を警戒し、自分たちも持とうとする。だから、あいまいが最もいいとの論法だ。

 「原爆が投下された日本からすれば、核兵器保有が自国のプラスになると素直には思えないでしょう。それは分かる。ただイスラエル国民にとっては、周囲に敵は多くても自分たちには核兵器があると信じることが重要なんです」

 これに対しイスラエル国会(クネセット)のドブ・ヘニン議員は「政府が核兵器の存在をはっきりさせないから、保有の是非についてオープンな議論ができない」と指摘する。ディモナにある核施設を閉鎖するよう国会での提案を試みたが、議題として受け入れられなかったという。

 ただ最近は、微妙な変化も出ている。大手紙ハーレツは昨年秋、核廃絶に向けた国際機運が高まっていると指摘したうえで、社説でこう主張した。「イスラエルはこの風潮をしっかり見つめ、準備しなくてはならない。すなわちディモナの封印を解くか、核分裂性物質の量を公表するかだ」

(2010年4月28日朝刊掲載)

この記事へのコメントを送信するには、下記をクリックして下さい。いただいたコメントをサイト管理者が適宜、掲載致します。コメントは、中国新聞紙上に掲載させていただくこともあります。


年別アーカイブ