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連載・特集

核兵器はなくせる 第11章 2010NPT <中> 核軍縮の明暗

■記者 金崎由美

 
素案 修正のたび後退 「禁止条約」では成果

 「2025年までの核兵器廃絶を」。核拡散防止条約(NPT)再検討会議が閉幕した5月28日。締めくくりの討論でエジプト代表は、あらためて廃絶の期限をうたい上げた。それは、最終文書から「目標年次」が消えたことに対する多くの非同盟諸国の憤りと無念さを集約するスピーチだった。

 4週間にわたる会議が折り返しに差し掛かった14日。ここで示された最終文書の当初の素案には「核兵器廃絶への行程表を作る国際会議を国連事務総長が14年に招集する」とあった。  五つの核保有国は激しく反発した。とりわけフランスは「実行可能でなければ意味がない」と強硬に主張。そのけんまくに議場外では「会議を決裂させるとすればイランかフランスだろう」「フランスは(国連予算を審議する)国連総会の第5委員会を使って阻止する構えらしい」とささやかれもした。

 「核兵器のない世界を目指す」オバマ米政権も、自らの核政策を縛る内容に強く抵抗。素案は修正を重ねるごとに骨抜きとなっていく。まず「14年」の言葉が消え、最後はとうとう会議の開催自体が消えた。第1小委員会のマルシク議長(オーストリア)は中国新聞の取材に対し「(議長としてはともかく)政府代表としては、時間枠は残したかった」と漏らした。

 核軍縮、核不拡散、原子力平和利用のNPT3分野のうち、素案段階から最も後退したのが核軍縮だ。国連外交筋がこう説明する。「核軍縮は保有国と非保有国の双方にとって、ほかの分野で譲歩を引き出し、成果を勝ち取るための『人質』となった」

 一方、廃絶への歩みを確実にするための強力で新たな提案があったのも今回の再検討会議の特徴だ。「核兵器禁止条約」である。  会期中、米国などの非政府組織(NGO)が拠点とした国連本部内の一室。NGO側は毎朝、各国代表をこの部屋に招いて意見交換を続けた。そうしてNGOが今回の最重点目標として各国に強く働き掛けたのが「核兵器禁止条約の交渉開始」だった。  だが、ここでも中国以外の4保有国が結束して抵抗した。19日、米国代表はいらだちをあらわにした。「禁止条約という考えは、私たちの心に響かない」

 結局、64の行動計画を盛り込んだ最終文書で、核兵器禁止条約については「交渉の検討」の文言がかろうじて生き残った。この条約に熱心な潘基文(バンキムン)国連事務総長周辺との接触も重ねてきたNGO核兵器廃絶国際キャンペーンのティム・ライト氏は「条約への支持の広がりを国際社会は無視できなくなった。その証しだ」と分析する。

 NGOと国連、一部政府の有機的なつながりの成果。ごく短い文言が持つ意義は、すこぶる大きい。

(2010年6月4日朝刊掲載)

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