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連載・特集

核兵器はなくせる 第12章 扉を開くとき <1>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

非人道的 禁止条約を

 核兵器はなくせる。なくさなければならない―。私たちは昨年来、アジアや欧米、中東など延べ17カ国で取材を重ね、核兵器廃絶こそが人類の責務だと紙面で訴えてきた。そうした取材を振り返りながら、核兵器のない世界への道筋を描き、連載を締めくくる。

 5月7日、米ニューヨークの国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議。ノーベル平和賞受賞者ジョディ・ウィリアムズさん(米国)が各国政府代表に向け声を張り上げた。

 「ヒロシマの人たちは、水が一瞬で蒸発するように消された。こんな兵器がどうして正当化できるんですか」

 対人地雷の非人道性を訴え、その禁止条約を実現させた功労者。昨年5月には、ほかの平和賞受賞者16人と連名で、核兵器廃絶への努力を中国新聞紙上で訴えた「ヒロシマ・ナガサキ宣言」にも署名した。

 1945年8月6日以来、被爆地広島が一貫して訴えてきたのが核兵器の非人道性だ。猛烈な熱線と爆風とともに、放射線が被爆者の体と心を襲った。空襲など一般戦災との違いは、その放射線が私たちの遺伝子を傷つける点にある。

 NPT再検討会議の会期中、日本被団協が国連本部ロビーで開いた原爆展。被爆者8人の半生を紹介するパネルに来場者の多くが足を止めて見入ったのも、後世にも影響が及ぶ核兵器の非人道性を受け止めたからだ。

 その再検討会議の討議でスイス代表がこう強調した。「核兵器は国際人道法が規定するすべての原理に本質的に違反する」「核兵器は非合法化しなければならない」―。

 今回の再検討会議に限らず、さまざまな場面で核兵器の非人道性は語られてきた。NPT体制だけで廃絶を目指すには限界があるとの認識が、市民社会や一部政府の間で確実に広がっているからだ。すなわち、五大国の核兵器保有を是認し、その自主的努力に削減を委ねるだけでは、「核なき世界」は描けない。

 そして廃絶への流れを間違いないものにする有効策の一つが、ウィリアムズさんも説く核兵器禁止条約にほかならない。その思いはNPT加盟国の間にも広がり、今回の再検討会議が採択した最終文書にも初めて「禁止条約の交渉検討」との画期的な文言が盛り込まれた。  被爆地の市民団体、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会はまずは、国際人道法の中心であるジュネーブ条約の追加議定書に、核兵器を含む大量破壊兵器の使用禁止を盛り込むよう主張している。

 核兵器は非人道的な「悪魔の兵器」だと明確に位置付け、禁止条約でその存在を根底から否定していく―。国際社会は今こそ、そのステップを踏みだすときだ。

(2010年6月14日朝刊掲載)

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