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連載・特集

核兵器はなくせる 第12章 扉を開くとき <2>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

「傘」を捨て脱抑止論

 核兵器の存在を正当化する根拠として、しばしば「核抑止論」が使われる。「東西冷戦期にも核戦争は起きなかった」「核兵器を持っているからこそ他国から攻撃されない」。しかし今年5月上旬、そうした核兵器保有国の「常識」を疑う報告書が発表された。

 米国のモントレー国際関係研究所がまとめたA4判、84ページの「核兵器の非合法化―核抑止力の有効性を検証する」。核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせたスイス政府からの委託研究だ。

 研究所のパトリシア・ルイス副ディレクター(53)が指摘する。「核抑止力はその有効性が検証されないまま過大評価されてきた。しかし、この65年間に起きた戦争の数をみても、核兵器が戦争を防いできたとの立証はできない」

 さほど目新しい見解ではない。だが多くの政府は核抑止論の呪縛(じゅばく)から抜けられないでいる。

 米国の圧倒的な核兵器が、北朝鮮に周辺国への攻撃を思いとどまらせているのか。NPT未加盟のまま核兵器を保有したインドとパキスタンは、互いの核戦力がほぼ同数だから使用を見合わせているのだろうか。

 被爆国日本政府は、そんな抑止論神話を信じ、米国の「核の傘」に頼り続けている。核兵器廃絶をうたうオバマ米政権が4月に発表した新核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で「米国や同盟国を脅威から守るため核抑止力を堅持する」としたのも、日本など同盟国の姿勢が影響したのは間違いない。

 しかし核の傘について明治学院大の高原孝生教授(国際政治学)は「人々を欺くまやかし」とし、実体はないと断言する。軍事アナリストの小川和久氏も核実験した北朝鮮の戦力を「日本への脅威度は高くない」と分析し、軍拡を進める中国についても「感情的に中国脅威論に走るべきではない」と説く。

 被爆国日本がまず「核の傘」政策を捨てるべきだ。そうすれば廃絶への世界的なリーダーシップにより各国からの信頼を高めることができる。それはアジアと共生する観点からも日本の国益にかなう。

 日本とオーストラリア両政府が支援した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)は昨年12月、最終報告書を発表した。そこでは核兵器の役割を減らしていくことが廃絶へのステップとの共通認識を踏まえ、核兵器の「先制不使用」宣言と、非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」をすべての保有国に求めた。

 すなわち核兵器の使用は、他の保有国から核攻撃を受けた場合の反撃に限る。そうなれば、少なくとも非保有国に核の傘は必要ない。  これらを保有国に約束させ、自らは傘を返上する。それが、抑止論の幻想を砕く道となる。

(2010年6月15日朝刊掲載)

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