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連載・特集

ベトナム 枯れ葉剤半世紀 第2部 加害と被害のはざまで <4> 遺棄疑惑~韓国

元米兵証言 揺れる農村

米韓調査結果 疑問の声も

 韓国中南部の倭館(ウェグァン)。小さな工業団地と、ブドウやメロンのビニールハウスが点在する。人口約3万人の農村が今、枯れ葉剤問題で揺れている。

「基地に埋めた」

 在韓米軍補給基地キャンプキャロルでの遺棄疑惑。1970年代に駐留した元米兵3人が昨年5月、米国の報道番組で「ベトナム戦争(60~75年)後、基地内に枯れ葉剤入りドラム缶を埋めた」と証言したのだ。

 「戦後30年以上たって、こんな大問題が出てくるなんて」。遺棄疑惑の真相究明に取り組む対策委員会の金善祐(キムソンウ)さん(38)は憤る。平和団体や労働組合など52団体が集い、韓国政府に対応を要求。昨年10月から、対策委が周辺住民約5千人の健康調査を続けている。

 元米兵の証言はこうだ。78年2月から1年間、陸軍の重機オペレーターとしてキャンプキャロルに勤務。同年夏、所属隊が命令を受け、基地内にブルドーザーで幅・深さとも約9メートルの穴を掘り、複数のドラム缶を埋めた。多くはさびて中身が漏れ出す状態。枯れ葉剤の中でも強毒の「オレンジ剤」、旧南ベトナムを指す「ベトナム共和国」と書かれたラベルもあった―。

 金さんは「きわめて詳細な証言。信ぴょう性は高い」とみる。

 事実上の内部告発を受け米国政府は、すぐに韓国と合同調査に乗りだす。地元の反発を抑える狙いもあったとみられる。調査では、金属探知器でドラム缶の有無の確認、土壌や地下水の検査をした。当時の基地従業員の聞き取りや保管文書のチェック、証言した元米兵立ち会いの下での検分もして、昨年12月に最終報告を公表した。

 オレンジ剤以外の除草剤などが埋設されたが、掘り出されて米国へ搬出▽土や地下水から微量のダイオキシンを検出したが、枯れ葉剤由来とはいえず、人体への影響はない―。証言をほぼ打ち消す結論だった。

 対策委メンバーで、倭館聖ベネディクト修道院の高晋奭(コジンソク)神父(38)は眉をひそめた。「埋設時は高濃度の汚染があった可能性が高い。何をどれだけ処分したのかも不明。真実を伏せ、おざなりな調査で幕引きしようとしている。他基地でも同じような問題はあり得る」

DMZでも使用

 韓国国内ではベトナム戦争中、北朝鮮と韓国を隔てる非武装地帯(DMZ)でも枯れ葉剤が使われた。これについても詳細な調査は進んでいない。

 基地による環境被害を追及するソウルの非政府組織(NGO)緑色連合のチョン・インチョルさん(32)に、DMZ周辺を案内してもらった。「被害補償の前提となる事実さえあいまい。政府は実態を解明し、対処する責任がある」と訴えた。

 米国と韓国の取材で、枯れ葉剤被害に苦しむ人々に出会った。両国政府は、それぞれ退役軍人を中心に一定の被害補償をしている。だが、大半の民間人、子や孫は枠から外れたままだ。翻って、ベトナムでの被害の甚大さ、救済の乏しさをあらためて実感した。戦争の不条理は続いている。(教蓮孝匡)=第2部おわり

(2012年7月6日朝刊掲載)

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