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社説・コラム

『潮流』 宇宙の年齢

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 「宇宙の年齢って、何歳ぐらいですか」。ラジオの子ども電話相談に届きそうな無邪気な問いの一つだろう。最新の知見を基に答えれば、すんなり解決しそうだ。

 ところが、米国ではそう簡単にはいかないらしい。世界は神がつくったと信じる人が国民の2~3割ぐらいはいるお国柄。他の国々では浸透している最先端の研究成果でも、「確かではない」と信じない市民や科学者もいるからだ。

 新たな発見が次々に積み重ねられるとはいえ、しょせん人間の営みである科学。さまざまな分野で、いまだ解明できていない「不確かさ」が残っている。何かが分かっても、その先に別の疑問が生じる。その繰り返しだから、「人知の壁」があるのも当たり前かもしれない。

 科学史研究者の受け売りだが、不確かさと、利害関係の二つがそろうと、科学者同士、ひいては市民の間に深刻な対立が生じやすいそうだ。なるほど、「宇宙の年齢」は米国ではまさに、この構図に当てはまる。

 日本でいえば、低線量の放射線がどれほど人体に影響するかの問題が当てはまるのではないか。

 わずかでも放射線を浴びれば、その分、リスクは高まる。放射線被害を防ぐための国際的な基準は、そんな考え方を採用している。しかし、それは「科学的ではない」との批判も根強い。低線量の放射線でも危険なのか、心配しなくてもいいのか。専門家の意見も、ほぼ真っ二つ。どちらを信じたらいいか、戸惑う市民がいても仕方ないのかもしれない。

 ことしはチェルノブイリ原発事故から30年、福島第1原発事故からは5年になる。低線量の問題が、北朝鮮の「水爆実験」に憤る広島にとっても、大事なことは言うまでもない。どこまで分かっているのか、冷静に光を当てながら、科学にどう向き合うべきかも考えていきたい。

(2016年1月7日朝刊掲載)

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