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グレーゾーン 低線量被曝の影響 第1部 5年後のフクシマ <5> 除染どこまで 見解に溝

 福島県伊達市に広がる桃畑を車で走ると、おもむろに高さ約2・5メートルの鋼板の囲いが現れた。内側には、約3千個の青い袋が積み上げられている。除染作業で削った土壌や伐採した枝葉などの廃棄物を一時的に保管する仮置き場だ。市内に104カ所あるという。

13年度で終了

 「仮置き場をこれだけ確保できている自治体はあまりない」。同行した市放射能対策監の半沢隆宏理事(58)が、胸を張った。東京電力福島第1原発事故を受け、伊達市は2012年度に約249億円の除染計画を作成。福島県内でも先行して、住民の被曝(ひばく)の低減に努めてきた。

 除染で大きなハードルになるのは、作業で出る廃棄物の行き先だ。他の自治体では、仮置き場が確保できず、やむを得ず各世帯の庭や駐車場で一時的に保管しているケースが今もある。

 伊達市は、除染の専従担当だった半沢理事が「猛獣(放射能)はおりに閉じ込めた方がいい」と住民を説得して回り、田畑を仮置き場として提供してもらった。さらに、除染計画では市内を放射線量の高低で3エリアに区分け。緊急性を重視し、エリアに応じて全面除染と部分除染(スポット除染)を使い分けた。

 伊達市の除染は、13年度末で終了。住民の放射線への理解を深め、無用な被曝を素早く遠ざけた成功例として、脚光を浴びた。

 ところが今、その伊達市で除染への不満が渦巻きつつある。遅れて開始した他の自治体の多くが、伊達市ではスポット除染しかしなかった、追加被曝線量が年5ミリシーベルト未満のエリアでも全面除染を進めているからだ。伊達市議会には、全面除染を求める陳情や請願が相次いだほか、市内の道路脇に市長の責任を問う看板も立っている。

市民 不安の声

 半沢理事は、そんな状況に戸惑いを見せる。「除染は早期に取り組んでこそ意味がある。他の市町と比べて、いつか除染してほしいという要望に応えるべきなのか…」。県内の除染が5年たっても続き、予算が右肩上がりに伸びる状況にも「除染自体が目的化しているのでは」と違和感を拭えないでいる。

 一方で、放射線に不安を覚える市民の思いも切実だ。昨年12月に設立した「伊達をみんなでピカピカ協議会」の杉浦美穂会長(38)は「市が基準を変えないのなら、自分たちの手で除染するしかない」と決意する。ただ、本音では「なぜ他の市と同じレベルで除染しないのか」との割り切れなさも消えない。

 除染に率先して取り組んできた行政と、他の自治体と比べて不安に思う市民との擦れ違い。今のところ着地点は見えない。(藤村潤平)

除染
 土壌や建物に付着した放射性物質を、表土の除去や拭き取りで取り除く。福島第1原発周辺の避難区域は国が直轄で実施し、伊達市など年間追加被曝線量が1ミリシーベルトを超える地域は国の指定を受けて自治体が行う。除染の枠組みを定めた特別措置法では、費用は全て東京電力が負担すると明記されている。

(2016年3月7日朝刊掲載)

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