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イワクニ 地域と米軍基地 地位協定の壁 <3> 周辺空域 米軍が管制

離着陸や通過 許可必要

 中四国地方の空に、米軍岩国基地(岩国市)が航空管制をしている空域がある。岩国進入管制空域。広島、山口、島根、愛媛の4県にまたがり、最高高度は約7千メートル。上から見ると、基地を中心に羽を広げたチョウのような形をしている。

 岩国空域にかかる岩国錦帯橋空港(同)、松山空港(松山市)では、民間機も基地の許可がなければ離着陸できない。ただ、最も影響を受けるのは空域の西側にある大分空港(大分県国東市)だと国内線のベテラン機長(54)は証言する。「岩国空域は通ってはいけないというのがパイロットの共通認識。避けて飛ぶから、羽田など東方面から大分へ向かう路線は難しい」

 民間機は岩国空域のさらに上を飛び、通過後すぐに大分空港への着陸準備に入る。このため一般的な路線より高度低下が急になると指摘する。「翼のブレーキだけでなく、上空で車輪を出し、空気抵抗を大きくして無理やり減速させる場合もある」という。

 岩国空域の管制を在日米軍が担う根拠は、日米地位協定にある。岩国基地の運用マニュアルでも、軍用機と民間機が「競合」すれば軍用機を優先すると明記する。「それがパイロットの共通認識の背景にある」と同じく民間機の機長の高橋拓矢さん(51)。パイロットたちの労組でつくる航空安全推進連絡会議(東京)事務局長も務める。

 高橋さんは約10年前の経験を振り返る。悪天候のため、在日米軍が当時管理していた沖縄本島周辺の空域を通過させてもらうよう要請したが、断られた。「日本が管制すれば、より柔軟な運航ができるはずだ」。連絡会議は毎年、岩国空域の管制業務を日本が担うよう、国に要望している。

 国にはしかし、そうした不都合が生じているとの認識はない。国土交通省管制課は「民間機が進入管制空域を避けているのは事実だが、空域の混雑回避のためで、どの空港の周辺でも同じだ。米軍が管制していることとは関係ない」と説明する。

 在日米軍が日本の空域管制を始めたのは戦後間もなく。日本側の設備や人員の不足を背景にした「一時的な措置」だった。だが、米軍は今も二つの空域で管制を続ける。岩国空域と、首都圏上空を覆う「横田空域」だ。

 なぜ米軍管制空域が残っているのか。中国新聞はその法的根拠について国に情報公開請求したが、不開示だった。

 日本政府も「空の主権」を取り戻そうとしてきた。日米両政府が在日米軍再編に最終合意した2006年、日米合同委員会に特別作業部会を設置。横田は一部返還を、岩国は「調整する」ことで一致した。

 横田は08年9月に一部返還されたが、岩国では動きが見えないままだ。国交省管制課は「国の主権の観点から、日本側が一元的に管制すべきだとの姿勢は崩していない」と強調する。それでも作業部会の開催状況や経過は、日米合同委が絡むため明かさない。

 「自国の空を管制できないのは異常。国が返還交渉に本腰で取り組むべきだ」と航空評論家の秀島一生さん(72)は指摘する。中四国地方の空は、戦後73年を迎える今も占領期の名残を引きずっている。(明知隼二)

進入管制空域
 離陸後の上昇、着陸に向けた下降のための空域。出発機や到着機の多い空港周辺に設けられ、複数の空港や飛行場を含む場合もある。全国に31カ所あり、うち在日米軍が管制を担うのは岩国空域と横田空域の2カ所。それ以外では国が15カ所、自衛隊が14カ所の管制をしている。

(2018年4月17日朝刊掲載)

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