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被服支廠解体 先送り表明 広島知事 1年めどに方向性

 広島県の湯崎英彦知事は17日、広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)で安全対策の原案として打ち出した「2棟解体、1棟の外観保存」について、2020年度としてきた着手を先送りすると正式に表明した。仕切り直しで方向性を示す一つのめどとして「21年度の事業を構築していく中になる」と指摘し、先送りは1年間を基本線とする考えも明らかにした。(村田拓也)

 20年度当初予算案を発表した記者会見で、昨年12月に示した原案について「議論をさらに深めていくことにした。原案の考え方が現状、何か変わったわけではない」と説明した。一般会計には、古くなった建物の壁を補強し、国や広島市と活用策を探る費用として2600万円を計上しており「利活用策の検討などを進めていく」と述べた。

 方向性をまとめる時期は「21年度の事業を構築していく中で、どう扱うかが一つのめどとなる」と展望した。その上で「それまでに決めないということではなく、できないこともあるかもしれない。確定的なことを言えるわけではない」と予防線を張った。

 原案を先送りする理由には①解体に反対する被爆者団体などが要望書や署名を提出した②原案への意見公募で過去最多の回答があり、関心が高い③松井一実市長が全棟保存を訴え、国会で取り上げられるなど環境が変化した④県議会の中本隆志議長から「もう少し時間が必要だ」と要請された―の四つを挙げた。意見公募の結果は、反対62・2%、賛成31・9%だった。

 今後の議論では、建物をどう利活用し、必要な財源をどう手当てするかの二つが大きな柱となる。このうち利活用については「さまざまな検討をし、アイデアはいくらでもある。ただ敷地の広さに制約があり、大量の人を集める施設は正直、難しい」と主張。解体を積極的に求める声もあると紹介し、財政問題と併せて検討していくとした。

 県は原案で、保有する3棟のうち爆心地に最も近い1号棟の外観を保存し、2、3号棟を解体・撤去すると打ち出した。2棟の解体は設計を経て20年度に着手し、22年度末に完了すると掲げている。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で、爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、昨年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表していた。4号棟については、国が解体を含めて検討している。

(2020年2月18日朝刊掲載)

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