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社説・コラム

NPT会議延期 新型コロナ 識者に聞く

 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受け、4月の開幕が1年延期される見通しとなったNPT再検討会議。核軍縮に詳しい識者2人に、受け止めや今後の影響を聞いた。(田中美千子)

広島修道大国際コミュニティ学部(広島市安佐南区) 佐渡紀子教授(47)=国際安全保障論、平和学

調整期間として生かせ

 2020年はNPT発効50年、広島と長崎への原爆投下から75年に当たる。この大事な節目の年に開かれないのは残念だが、会場となる国連本部がある米ニューヨークでは施設閉鎖も相次いでいる。延期は仕方ない。会期を短縮するなどして落ち着かない環境下で開くより、腰を落ち着けて討議し、成果を導き出す方が今後の核軍縮によほど重要な意味を持つ。

 そもそも今の国際情勢では、今回の再検討会議で成果を出すのはかなり難しかっただろう。核兵器保有国と非保有国の分断は広まるばかり。昨年は米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効するなど、核超大国の両国の対立は続いている。さらにトランプ政権は核に対する投資を増やす姿勢を見せている。米国が非保有国に歩み寄ることなど期待できない。

 15年の再検討会議は決裂し、最終文書を採択できなかった。2度続けて失敗してしまえば、NPTそのものの信頼性がそがれてしまう。今回は確実に成果を出したい。延期が決まれば、日本政府を含む加盟国が調整を進める期間として生かしてほしい。

平和外交研究所(東京都) 美根慶樹代表(76)=元軍縮大使

配備 既成事実化を懸念

 核を巡る国際情勢は非常に厳しい。今回、再検討会議が開かれればまた失敗に終わるだろう。延期されれば、国際社会に失望感が広まる事態はくしくも回避されることになる。だが憂慮すべき問題がある。米国が小型核を実戦配備した問題がかすんでしまうことだ。

 爆発力を抑えた小型核は核使用の垣根を大きく下げる。米国内にも反対論があり歴代政権は踏み込まなかったが、トランプ政権はいとも簡単にやってしまった。日本にも深刻な問題だ。日本政府は今回の再検討会議で核軍拡競争に反対するべきだった。延期により時間がたつほど、配備が既成事実化されかねない。

 また核兵器禁止条約を支持する国や非政府組織(NGO)、広島、長崎の被爆者たちは今回の会議を条約推進の好機と捉え、準備していたはずだ。それが空振りのような格好になると思うと、残念でならない。

 唯一の戦争被爆国を自認する日本政府は、延期期間中の行動を問われる。核軍拡の流れに異を唱えるべきだ。そして被爆75年の年であることを踏まえ、核兵器の非人道性にあらためて光を当てる努力を求めたい。

(2020年3月14日朝刊掲載)

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