×

連載・特集

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <8>

 米国による広島と長崎への原爆投下で、第2次世界大戦が終わった。その後半世紀に少なくとも2千回を超える核実験が行われた。米国、英国、フランスは、本国からはるかに離れた太平洋の島々…ポリネシア、マーシャル諸島、ミクロネシアの緑豊かな地を壊し、島民を被曝(ひばく)させた。白人の非白人への加害である。本心では、島民を人間と思っていなかったのか。

 特に1954年3月1日、ビキニ環礁での米国による水爆実験は大きな被害を生む。約150キロ離れたロンゲラップ島には死の灰が降る。珍しい雪に現地の子どもたちはたわむれた。天からの水も汚染されており島民たちは内部被曝する。3日後に「救助」し、検査施設へ送ってモルモットの運命に陥れた。広島で米国の原爆傷害調査委員会(ABCC)が、被爆者を調べたのと同じように。

 マグロ漁船第五福竜丸も死の灰を浴びた。全員が「急性放射能症」となり、最年長の久保山愛吉さんが亡くなる。全国が「水爆魚」におびえて、騒然となった。その年の5月、東京都杉並区の女性たちが「水爆禁止署名運動杉並協議会」を立ち上げ、8月には「原水爆禁止署名運動全国協議会」が結成されて全国に波及した。

 来る夏、広島・長崎は、被爆75年を迎える。この長い年月、核保有国は核のどう喝によって世界を支配し、道義的な歯止めの構築を怠った。すでに次世代のAI兵器が実用段階にある。原爆の地獄図を、自分の目で見た一人として、地球上の生命絶滅の予感が、あまりにも無念でならない。(詩人・女性史研究者=千葉県)=おわり

(2020年4月28日朝刊掲載)

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <1>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <2>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <3>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <4>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <5>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <6>

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <7>

年別アーカイブ