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控訴有無 明言避ける 「国の代理」複雑な立場 広島市 被爆者に寄り添いつつ

 「黒い雨」による被害を認定し、原告の84人全員に被爆者健康手帳を交付するよう命じた29日の広島地裁判決。原告の全面勝訴の判決に、広島市の松井一実市長は「原告の切なる思いが司法に届いた」と寄り添うコメントを出す一方、控訴については「関係機関と協議する」との表現にとどめた。国に代わって手帳の審査や交付を手掛け、「被告」となった市の複雑な立ち位置がにじんだ。(明知隼二、久保友美恵)

 今回の訴訟の端緒は、原告が申請した手帳について「交付しない」とした、市と広島県による却下処分だった。国の方針に沿った対応で、裁量の余地はなかった。

 それでも訴訟では、国も加わり「健康障害を発症し得る相当程度の放射線被曝(ひばく)をしたような事情は認められない」などと主張し、原告の訴えを退ける立場となった。

 一方で市は、国が「大雨地域」を援護対象と指定した翌年の1977年から、区域の拡大を求め続けてきた。2008年には県とも連携し、約3万7千人を対象とした大規模調査を実施。従来の「大雨地域」の約6倍の範囲で雨が降ったとの結果をまとめ、国に拡大を迫ったが実らなかった。

 松井市長は、被爆者と直接向き合う現場のジレンマについて、13日の記者会見で「寄り添う気持ちと、国の立場での事務執行がある。こうした問題を解消できる判決が出ればいい」との期待感を示していた。

 この日、中区の弁護士会館であった原告側の報告集会では、参加者から「市などが区域の拡大を求めながら控訴するなら、正義に反する」との発言があった。松井市長と湯崎英彦知事は控訴を含め、どう国と向き合うのか。被爆地の首長としての姿勢が注目される。

(2020年7月30日朝刊掲載)

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