×

連載 被爆70年

[伝えるヒロシマ 被爆70年] 朝鮮人の被害調査 翻訳 韓国政府報告書の日本語版 今夏刊行

 韓国政府が初めてまとめた原爆被害調査報告書が今夏、日本語訳で刊行される。「広島・長崎 朝鮮人の原爆被害に関する真相調査」と題し、日本の植民地支配のもと徴用を強いられた人々の実態を貴重な資料から掘り起こしている。聞き取った被爆者の証言集も翻訳刊行する方針だ。(「伝えるヒロシマ」取材班)

 報告書は75ページ。ソウルにある政府の「対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会」が2005年から調べ、11年に刊行した。

 大戦中、軍需会社に指定された主な動員現場には、広島市と近郊で少なくとも計2194人、長崎市で1854人がいたことを資料から確認している。

 日韓両政府の間で10年に引き渡された未払い賃金などの「供託金名簿」によると、三菱重工業広島造船所には1903人がおり、95%が京畿道から動員されていた。東洋工業(現マツダ)には、現存する「応徴士身上調査票」や、生存者の証言から400人を超す人々が実際はいたとみている。

 原爆には、定住者をはじめ広島で5万人、長崎で2万人の計7万人が遭い、うち4万人が死亡、2万3千人が帰国したとする推計値を紹介。広島は、慶尚南道陝川(ハプチョン)郡から働きに出た移住者にとどまらず、現ソウルや京畿道から大量動員されたうえ、建物疎開作業に出て多くが犠牲となった。長崎では被爆者の半数相当が強制動員だった、としている。

 証言集「わが身に刻まれた8月」は20人(うち広島11人)の体験を聞き取り、08年に刊行。本文は457ページ。過酷な労働や、被爆して逃げた先で治療を十分に受けられなかったことなど生々しい証言が続く。

 調査執筆や聞き取りに当たったのは支援委員会審査3課長、許光茂(ホグァンム)さん(51)。日本経済史を専攻し一橋大で博士号を取得している。

 「強制動員の実態は韓国でもよく分かっておらず、委員会の務めは『失われた歴史』を取り戻すことにある。ネガティブな歴史も記録し、記憶することが大事だ」といい、「なぜ韓国人が被爆しなければならなかったのかを日本の人にも考えてほしい」と話す。

 委員会が委託した広島出身の河井章子さん(58)=千葉県=が翻訳を進め、約千部を刊行する予定だ。

(2015年5月11日朝刊掲載)