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連載 被爆70年

伝えるヒロシマ ⑥ 寄せられた資料 「黒い雨」の着物

誕生の晴れ着 残る染み

 広島市中区江波二本松の鈴木富美子さん(70)は、誕生祝いで身にまとった着物が原爆の「黒い雨」を浴びた。96年に91歳で亡くなった母輝子さんがこうりにしまっていたのを受け継ぐ。

 両親と祖母との4人で河原町(現中区)に住んでいた。着物など大事な品は空襲に備え、己斐町(同西区)の知人宅に預けていた。45年7月下旬からは、一家は知人宅へ夜間は身を寄せるようになっていた。

 8月6日は、自宅にとどまっていた74歳の祖母フサさんが死去。近所に住んでいた伯母といとこも原爆死した。爆心地から約3キロ離れていた知人宅は屋根の一部が吹き飛ばされた。着物は屋根裏に納めていて、放射性降下物を含む「黒い雨」に遭ったとみられる。

 富美子さんが結婚して、母は一家の被爆をぽつりぽつり語るようになったという。72年、親子で被爆者健康手帳を申請した。

 被爆の時は1歳3カ月。直接の記憶はないが、黒い染みが点在する着物に戦争と原爆の歴史を重ねる。「最近の政治の動きには危機感を覚えます。負の歴史を繰り返さないよう役立ててほしい」。着物を原爆資料館に寄せ、多くの人に見てもらいたいという。

(2014年7月8日朝刊掲載)