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連載 被爆70年

[ヒロシマは問う 被爆70年] プーチン氏「核準備」発言 広島市立大広島平和研究所・水本和実副所長 使用の敷居下げ 危険

 ウクライナ危機の際、核兵器の使用準備を指示していたとロシアのプーチン大統領が明かしたことに、国際社会が反発を強めている。発言の問題点をどう読み解き、被爆地から何を訴えるべきか。核軍縮が専門の広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長に聞いた。(金崎由美)

 ―発言をどう受け止めましたか。
 米国と合わせると世界の核兵器の9割以上を保有する核大国が核で威嚇したのに等しい。大問題だ。核軍縮に向けた国際的な流れを台無しにしかねない。

 自国が核兵器で威嚇されているわけではないのに、地域紛争を核兵器で解決する意思を誇示した。核使用の敷居を下げることを意味し、危険きわまりない。ロシアと中国、インド、パキスタン、北朝鮮が核を持つアジアにもそのような正当化論が波及すれば問題だ。日本が米国の「核の傘」へのさらなる依存を正当化する材料にもなり、被爆地の訴えと相いれない。

 ―5年に1回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を来月に控え、機運に水を差した形ですね。
 旧ソ連が崩壊した際、ウクライナには大量のソ連の核兵器があった。しかし放棄を決断し、非核兵器保有国としてNPTに加盟した。核を諦めた国を、核で威嚇する言動はNPT体制の根幹に関わる。再検討会議では、各国による一般討論演説などで批判が相次ぐだろう。

削減に反応せず

 ―ロシアが核軍縮に後ろ向きであるのだと、あらためて痛感させられますね。
 米国のオバマ大統領は2013年にベルリンで演説した際、米国の配備済みの戦略核弾頭を3分の1減らすとした上、ロシアとの交渉を通じて射程の短い「戦術核」の削減にも取り組む意向を示した。だがロシアは何ら反応を示していない。

 ロシアは戦術核を2千発も持っているとされており、米国がNATOに配備している核を数で圧倒している。プーチン大統領の発言は、戦術核を減らす米国との交渉に至っていないことがいかに問題であるかも浮き彫りにした。

 ―日本政府の態度をどうみていますか。
 北方領土問題をめぐりロシアとの関係に亀裂を生じさせたくない事情はあるのだろう。だが、岸田文雄外相(広島1区)が唱える核軍縮政策の柱である「核兵器の役割の低減」を否定する動きであり、断固非難をすべきだ。

非人道性訴えよ

 ―被爆地から何ができると思いますか。
 核兵器に依存する為政者に、ロシア国民がノーを言えるかが問われている。たとえば核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、核兵器廃絶を目指す科学者の世界的組織「パグウォッシュ会議」、宗教者のネットワークなど、あらゆるルートを通じて、核への依存が許されざる行為であるとロシアの市民社会に訴えたい。

 領土問題は簡単に解決せず、武力衝突に発展させないよう国際社会の努力を積み上げるしかない。一方で、核兵器使用の敷居を下げる動きは、領土問題の有無を問わず論外だ。二つの問題を一緒に論じるのはプーチン大統領の術にはまることになる。両者を切り離し、核兵器の非人道性の問題であることを根気強く語り続けなければならない。

みずもと・かずみ
 1957年、広島市中区生まれ。東京大法学部卒。米タフツ大フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。98年4月に広島市立大広島平和研究所助教授。2010年4月に教授、同年10月に現職。

(2015年3月18日朝刊掲載)