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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 被爆樹木の今 世界に伝える

 広島市中心部を歩くと、原爆の惨状(さんじょう)を生き延(の)びた「被爆樹木」に出合います。爆風(ばくふう)や熱線で傷(きず)つきながらも新しい芽を出して力強く育つ様子は、市民に希望を与えてきました。中国新聞ジュニアライターは、被爆樹木を訪ね歩いてストーリーを考え、米国のアーティストたちと一緒に紙芝居を作りました。被爆樹木の種や苗木(なえぎ)を海外に贈(おく)る団体の活動にも参加しました。広島市民の平和への思いが込められている被爆樹木について、国内外にもっと知ってもらいたいです。

紙面イメージはこちら

イチョウ題材 紙芝居作り

米芸術家と作業 核廃絶の思い込めた

 広島市は、爆心地からおおむね2キロ以内に被爆前からあった約160本を「被爆樹木」として登録しています。東区牛田本町の安楽寺(あんらくじ)にあるイチョウも含まれます。爆心地(ばくしんち)から2・1キロの境内で被爆し、幹の一部が燃えましたが、今はたくさんの葉を付けて大きく育っています。

 安楽寺を訪れ、前住職で被爆者の登世岡浩治さん(89)から当時の話を聞きました。弟の純治さん=当時(12)=は、やけどで全身真っ黒になり、苦しみながら寺で亡くなったそうです。原爆投下の翌年にイチョウが新しい芽を出して、周りの住民を勇気づけたといいます。

 旧日本銀行広島支店(中区)であった平和イベント「ゼロプロジェクト広島」のワークショップに参加して、このイチョウを主人公に紙芝居を作りました。イベントを主催(しゅさい)したのは、米国人アーティストのキャノン・ハーシーさん(42)が代表を務める団体です。

 シナリオを考え、画用紙8枚に、物語の場面を想像しながらクレヨンや筆ペンで描(えが)きました。ちぎった折り紙で葉の立体感を出し、本物のイチョウの葉を貼(は)って木の生き生きとした様子を表現しました。

 紙芝居が完成するまでの作業を動画撮影(さつえい)してもらい、ジュニアライターの声でナレーションを録音しました。それを映像作家のピーター・ビルさん(49)が約6分の映像作品にしました。英語版も作り、ハーシーさんたちが来春、米ニューヨークなどで披露(ひろう)する予定です。「核兵器のない世界の実現を目指そう」という私たちの思いが原爆に関心のない大人や、子どもたちに伝わってほしいです。

種集め 生命力を実感

36の国・地域で芽吹く

 広島市の市民団体「グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ(GLH)」は、被爆樹木から採った種や、その種から育てた苗木を海外の学校や平和団体に贈っています。10月初旬、GLHの約30人が被爆イチョウと被爆クロガネモチの種を集める活動をしました。

 爆心地から1・3キロの縮景園(中区)に立つイチョウは、爆風で幹が傾いていますが、高さ17メートルと大きな木です。周囲の草をかき分けてみると、ギンナンがたくさん落ちています。木の生命力を感じました。

 広島城のクロガネモチは爆心地から910メートルで被爆しました。木肌はでこぼこして黒く、被爆した時に焦げたことが分かります。赤い実をつぶして中の種を採ります。小さくて集めるのに苦労しました。種は、樹木医の協力を得て市植物公園(佐伯区)で保管し、海外に郵送(ゆうそう)するそうです。

 GLHは、ユニタール(国連訓練調査研究所)広島事務所(中区)と、NPO法人ANT―Hiroshima(同)が2012年に始めました。ナスリーン・アジミ代表(60)は「被爆樹木2世がさまざまな場所で育ち、人の目に触(ふ)れることで木の背景(はいけい)やヒロシマの思いを知ってもらえる」と話しました。

 種や苗木の贈り先は、核保有国の英国やフランスなどを含め36カ国・地域に広がっています。このような小さな活動も積み重ねていくと核兵器廃絶に向けた大きな力になると思いました。

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)も、14年から加盟自治体を対象に種や苗を贈っています。国内では31都道府県の110自治体、海外では18カ国54都市に届(とど)けています。

私たちが担当しました
 この取材は、川岸言織・17歳、フィリックス・ウォルシュ・17歳、森本柚衣・15歳、柚木優里奈・15歳、岡島由奈・15歳、桂一葉・15歳、林田愛由・15歳、中島優野・13歳、俵千尋・13歳、田口詩乃・13歳、山瀬ちひろ・13歳が担当しました。

(2019年11月25日朝刊掲載)

【取材を終えて】

 私はゼロプロジェクト広島のワークショップに初めて参加し、映画作家のビルさんたちと一緒に紙芝居を作りました。紙芝居を作る上で、被爆樹木の今と昔について知ることができました。また、絵の具などを使って原爆の色を想像しながら表現しました。海外でも紙芝居の動画が上映され、多くの方が見てくださるので、広島の被爆樹木を知ってもらうきっかけになればいいと思います。(高1森本柚衣)

 私は登世岡さんが米国に復讐すると誓っていたのに、大学に入って仏教を学ぶうちに「相手を敬うことが平和の基本だと考え、優しい心をもって接さなくてはならないと考えるようになった」とおっしゃっていたことが、とても記憶に残っています。1度誓った憎しみが変わることは簡単なことではないと思います。登世岡さんの「相手を敬うことが平和の基本」という考えと、登世岡さんの被爆体験を伝えていきたいです。(中2中島優野)

 私は今回初めてゼロプロジェクト広島に参加しました。紙芝居を作って、言葉が通じない国の人にも「絵」で被爆体験を伝える事ができ、達成感を感じました。発表するとき、作業行程の動画を流す事で少しでも自分たちの工夫が分かってもらえたら嬉しいなと思いました。ディスカッションの時は、たくさんの国の人と意見交換をして緊張したけど、それ以上にこの有意義な時間を楽しもうと思う事が出来ました。これからも世界中の人と交流したいので次回も参加したいです。(中1山瀬ちひろ)

 今回、ゼロプロジェクト広島に参加したことで、相手にどのように伝えればより分かりやすく伝わるかを考えるようになりました。国、言葉、文化が違えば、考え方や物の見方も違うと思います。そこをしっかり理解した上で、自分が伝えたいことをきちんと表現することが大切さだと分かりました。相手の意見を尊重し、思いに耳を傾けることで、自分のアイデアが良い方向に向いていくように思いました。コミュニケーションを取ることは難しいけれど、それこそ平和を実現する一歩だと思うので、たくさん挑戦していきたいです。(中3桂一葉)

 私が今回、グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブの被爆樹木の種集めに参加して印象に残ったのは、アジミさんの「小さな場所を救うのも大きな場所を救うのも同じように大事なこと」という言葉です。アジミさんは、この活動で多くの貧しい人をみんなで救いたいとおっしゃっていました。実際、今回の活動には日本だけでなく、さまざまな国の方が参加していました。皆さん熱心に楽しそうに行っていました。みんなで救うことに意味があるのではないか、そう感じました。(中1俵千尋)

 今回初めて被爆者から聞いた話を文章ではなく「絵」で表し、それを紙芝居にする、という体験をしました。紙芝居制作に入る前の時点で、どの場面に何を使って表現すれば見ている人に伝わるのかなかなか思いつかず、予想以上に時間がかかりました。制作ではタイムラプスを意識しながら、折り紙を使って立体感を出したり、イチョウの葉を使用したりと、学校の美術の授業とは違うことをたっぷりと体験できました。この紙芝居を多くの人に見てもらい、平和について考えてほしいです(中3岡島由奈)

 今回の紙芝居で、言葉は違っても絵なら世界中の人が同じように感じるのだなと思いました。ナレーションは日本語であったにも関わらず、英語を使っていた方たちも真剣に見てくださっていました。とても嬉しかったです。日本人以外の方と意見を交換したりする機会はあまりないので、これからもっと海外の方とも平和や核兵器について話してみたいと思いました。(中3林田愛由)

 8月6日に安楽寺で起こったことを被爆樹木の目線にから物語を伝えたことで、物語により重みを持たせることができました。最初は紙芝居を作るだけだと思っていましたが、ビルさんが「動画を作ろう!」と言って紙芝居を作る様子と音声を合わせた動画を作成しながら紙芝居も完成させました。時間が限られた中で作ったので大変でしたが、とても楽しかったです。そして、紙芝居を作る様子を動画に収めるのでぶっつけ本番で紙芝居を制作していました。折り紙をちぎって貼ったり、クレヨンで色を混ぜたりして、さまざまな技法を使いながら紙芝居を一枚一枚作りあげていくのが新鮮で楽しかったです。最後に私たちが作った紙芝居がナレーション入りの動画になって大きなプロジェクターで参加者の前で流れたときの達成感は今でも忘れられません。この紙芝居で伝えている物語は、世界中に広まるべきだと思います。この物語から戦争によって人々が失うものが明白で、戦争をすることがどれだけ悲惨なことなのかしっかりと伝わると思っています。(高2フィリックス・ウォルシュ)

 私は今回、被爆樹木の紙芝居制作に参加しました。最初はどうなるのか不安な気持ちがありました。しかし、制作に入ると、みんなで協力してひとつひとつ丁寧に紙に絵を描いていくことができたので、不安は消えていきました。制作方法も携帯電話のタイムラプスという機能で、作る過程を撮影して見せる初めての経験で驚きましたが、作業を進めていくうちに楽しくなっていきました。私はこれからもジュニアライターとして記事を書いていくとともに、他の発信する方法も少しずつ見つけていきたいです。(高2川岸言織)

 今回のゼロプロジェクトや被爆樹木の取材で、登世岡さんが生きる上で大切にしていることを知ることができました。登世岡さんの「優しい心をもって接する」という言葉が印象的でした。憎むだけでは何も解決しません。どんなときでも思いやりの気持ちを持ちながら自分の考えを伝えることが大切だと感じました。また、紙芝居のストーリー作りではイチョウの目線に立って考えることで、命のつながりに気づくことができました。命の尊さを忘れないように生きていこうと思います。広島の被爆という出来事が風化させないためには、次の世代へと語り継がなければなりません。紙芝居は誰にでも理解しやすく、親しみやすいのが特徴です。だから、これからは紙芝居のように子どもにも伝わる形で平和を発信していきたいです。(高1柚木優里奈)

 ナスリーン・アジミさんの 「地元を考えた時、それが世界を考えることになる」という言葉が心に残っています。地元のことを考えて何か行動することで、世界に伝わったり、影響を与えたりする。それが小さな活動でも世界を動かすことにもなり得る。世界という大きなことを考えて、自分の身近なことをするということはよく考えますが、その逆の発想は私にはありませんでした。しかし、今回の活動に参加し、その通りだと思いました。被爆樹木の種を集めるという小さな活動が世界にまで影響を与える。とてもすばらしいことだと思いました。それと共に、こういう活動がもっと知られるといいと思いました。身近な小さなことでも多くの人ですれば、世界に大きな影響を与えることができると思います。また、それをするのは私たちの世代だと思いました。自分たちのことも世界のことも視野に入れて行動していかなければならないと思います。私たちは平和だけでなく、広い視野で物事を考え、行動に移していかなければいけません。これからそういうことを大切にしていきたいと思いました。(中1田口詩乃)

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