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連載・特集

緑地帯 大上充子 広島俳句今昔 <4>

 先日、三滝寺(広島市西区)に出掛けた。地元では「三滝観音」の愛称で親しまれる高野山真言宗の古寺である。三滝山の東側の中腹の樹林に伽藍(がらん)を展開する。紅葉の秋に限らず、静かな散策をするには絶好な所である。

 市街地からいくらも離れていないのに深山幽谷を思わせる。谷川とがけに挟まれた参道を上っていくと、こけむした石仏や石碑、文学碑が数え切れないほど並ぶ。碑巡りも作句にも良い場所である。

 鐘楼の周囲はとりわけ句や歌碑が多い。その中に広島俳句協会が建立した原爆慰霊の碑がある。俳人33人の句が刻まれ、平和の大切さを訴える。原爆、炎、水を詠んだ句が目に付く。

 「地を摑(つか)む羽化の蟬あり爆心地」(赤井伏竹)「原爆忌万の市民の短い翳」(木村里風子)「暁の蟬焦土にいのち蘇へり」(宮原双馨)

 原爆から三十三回忌にちなんで、当時の会長、宮原双馨が発起人となり、原爆の句を募集した。33人の句が選ばれ、1977年8月6日に建てられた。

 また、三滝は文人墨客の集う所だった。毎年、久保田万太郎句会が行われた。これは三滝多宝塔奉納俳句大会で、中央から久保田をはじめ、安住敦、中村汀女、永井龍男、宮田重雄たちが集まっていたが、惜しくも途絶えてしまった。

 多宝塔のそばの二つの石碑には、「焦土かく風たちまちにかをりたる」(久保田万太郎)、「落花濃し三滝のお山父母恋へば」(中村汀女)と、それぞれ刻まれている。(広島俳句協会事務局長=広島市)

(2020年11月16日朝刊掲載)

緑地帯 大上充子 広島俳句今昔 <1>

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