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首相「成長と分配」両立 新しい資本主義提唱 所信表明

「核兵器ない世界」へ決意

 岸田文雄首相(広島1区)は8日、就任後初めての所信表明演説を衆院本会議で行った。新型コロナウイルス対策に最優先で取り組む姿勢を示し、格差是正に向けて中間層を守る「新しい資本主義」を提唱。被爆地広島選出の初の首相として「核兵器のない世界」を目指す決意を示した。一方、「政治とカネ」問題など安倍、菅両政権の「負の遺産」への対応には言及しなかった。衆参両院で各党代表質問を11~13日に行う。衆院解散が14日に迫る中、与野党の攻防は激しさを増しそうだ。(下久保聖司)

 首相は難しい政治課題に挑むに当たり「国民の声を真摯(しんし)に受け止め、かたちにする、信頼と共感を得られる政治が必要だ」と力説。内閣と市民との車座対話を始め、国民のニーズをくみ取る姿勢を明確にした。

 最優先課題と位置付けたコロナ対策は丁寧な説明に努め、常に最悪の事態を想定して当たるとした。3回目のワクチン接種の準備▽電子的な接種証明▽経口治療薬の年内実用化▽無料検査の拡大―を挙げ、関係閣僚に「安心確保の取り組みの全体像」を示すよう命じたと明かした。同時に司令塔機能の強化や、人流抑制と医療資源確保のための法改正で危機管理を抜本的に見直す方針を表明した。

 経済政策を巡っては、新自由主義が格差拡大を招いた面に触れ、新しい資本主義を「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」で実現させると強調。「成長か分配かという不毛な議論からの脱却」を主張した。「デジタル田園都市国家構想」の下で、地方からリモート技術を活用した働き方、農業や観光産業でのデジタル技術活用を進めるとした。

 外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)は「改定に取り組む」と述べた。日米同盟の抑止力を維持しつつ米軍基地が集中する沖縄県の負担軽減に取り組む決意も示した。

 強靱(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)を構築するため経済安保の法案を策定すると強調。中国を念頭に、多国間連携で「自由で開かれたインド太平洋」をつくるとした。

 核兵器のない世界に向けては、核保有国と非保有国の橋渡しに努め「唯一の戦争被爆国としての責務を果たす」と訴えた。今年1月に発効した核兵器禁止条約には触れなかった。

 改憲については国会の憲法審査会で「与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的議論を深めることを期待する」と述べた。

岸田首相の所信表明(抜粋)

四 第三の政策 国民を守り抜く、外交・安全保障

 私の内閣の三つ目の重点政策は、「国民を守り抜く、外交、安全保障」です。

 私は、外交、安全保障の要諦は、「信頼」だと確信しています。先人たちの努力により、世界から得た「信頼」を基礎に、三つの強い「覚悟」をもって毅然(きぜん)とした外交を進めます。

 第一に、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜く覚悟です。

 米国をはじめ、豪州(オーストラリア)、インド、ASEAN、欧州などの同盟国・同志国と連携し、日米豪印も活用しながら、「自由で開かれたインド太平洋」を力強く推進します。

 深刻化する国際社会の人権問題にも、省庁横断的に取り組みます。

 第二に、わが国の平和と安定を守り抜く覚悟です。

 わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、わが国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜きます。

 そのために、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組みます。この中で、海上保安能力やさらなる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に、果敢に取り組んでいきます。

 こうしたわが国の外交・安全保障政策の基軸は、日米同盟です。私が先頭に立って、インド太平洋地域、そして、世界の平和と繁栄の礎である日米同盟をさらなる高みへと引き上げていきます。

 日米同盟の抑止力を維持しつつ、丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担の軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます。

 北朝鮮による核、ミサイル開発は断じて容認できません。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。

 拉致問題は最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、全力で取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と直接向き合う決意です。

 第三に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟です。

 核軍縮・不拡散、気候変動などの課題解決に向け、わが国の存在感を高めていきます。

 被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、「核兵器のない世界」です。私が立ち上げた賢人会議も活用し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします。

 これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶という名の松明(たいまつ)を、私も、この手にしっかりと引き継ぎ、「核兵器のない世界」に向け、全力を尽くします。

 世界で保護主義が強まる中、わが国は自由貿易の旗手を務めます。デジタル時代の信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT」を実現するため、国際的なルールづくりに積極的な役割を果たしていきます。

 中国とは、安定的な関係を築いていくことが、両国、そして、地域および国際社会のために重要です。普遍的価値を共有する国々とも連携しながら、中国に対して主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めると同時に、対話を続け、共通の諸課題について協力していきます。

 ロシアとは、領土問題の解決なくして、平和条約の締結はありません。首脳間の信頼関係を構築しながら、平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指します。

 韓国は重要な隣国です。健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていきます。

(2021年10月9日朝刊掲載)

社説 岸田首相の所信表明 課題解決へ具体策欠く

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