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連載・特集

どうみる 核兵器禁止条約発効1年 <下> 長崎大核兵器廃絶研究センター副センター長 鈴木達治郎さん

日本批准へ外交努力を

「悪の烙印」 五大国に重圧

  ―核兵器禁止条約は発効後、国際社会にどのような影響を及ぼしていますか。
 核兵器に悪の烙印(らくいん)を押すという、条約の目的の効果は出ている。例えば、核兵器関連企業への投融資をやめる動きや、米ニューヨーク市議会などが自国政府に条約参加を求める動きがある。今年初めには、米中ロ英仏の核兵器保有五大国の首脳が核戦争回避を「最重要責務」とうたう共同声明を発表した。五大国にとっても条約はプレッシャーとなっているのだろう。

  ―日本政府は3月に予定される条約の締約国会議へのオブザーバー参加に後ろ向きです。参加した場合、メリットとデメリットのどちらが大きいですか。
 メリットの方が大きい。日本政府が掲げる保有国と非保有国の「橋渡し役」にもつながる行動だ。条約に盛り込まれた被害者支援や環境修復について、被爆国の日本は知見を持っており、その分野で協力もできる。

 参加に当たっては、核抑止を否定する動きとの認識を避けるため、米国、そして米国の同盟国であるオーストラリアや韓国と十分協議することが望まれる。米国が嫌がり、デメリットとなる恐れもあるが、日米同盟に深刻な影響を与えるほどではないだろう。従来の同盟関係には影響を与えないことを明確にすれば、参加の道は開ける。

  ―日本が条約に署名・批准することは実現可能ですか。
 核抑止を否定している条約に日本が加わるためには、日米同盟を維持しつつ核抑止は必要ないとの状況をつくる必要がある。大変な労力と時間がかかるが、不可能ではない。どれだけ努力するかが重要となる。

  ―その努力とは。
 朝鮮半島と中国、ロシアを含む地域の緊張を外交努力で緩和させることがまず必要だ。例えば、北朝鮮との国交正常化や朝鮮戦争の終結に向けた支援が挙げられる。日本が検討している敵基地攻撃能力などは、逆に緊張を増幅させる。緊張が増すと、戦争や核兵器の使用リスクが高まり、条約どころではない。

 そして、核攻撃をしないなどの約束をする「非核兵器地帯」を北東アジアや朝鮮半島につくることも重要なステップとなる。米国もこの約束に加われば、北朝鮮は安心して核兵器をなくすことができ、日本が核攻撃される恐れも低くなる。「安全保障環境が厳しい」との理由で何もしないままだと、いつになっても条約への参加は実現しない。

  ―条約の効果を高める上で、被爆地の役割は。
 長期的な苦しみをもたらす核被害の実相を世界に訴えることが、まず求められる。条約には保有国が入っておらず、批准国・地域も現段階で60に満たない。核兵器を全面的に禁じる動きを世界に広めるためにも、被爆地からの発信は重要だ。また、被爆地には医療をはじめ核の被害者を支える専門家がいる。条約に盛り込まれた被害者支援を巡っても貢献できるだろう。(小林可奈)

すずき・たつじろう
 1951年大阪府生まれ。米マサチューセッツ工科大修士課程修了。東京大で工学博士号取得。内閣府原子力委員会委員長代理や長崎大核兵器廃絶研究センター長を歴任。核兵器廃絶を目指す科学者の世界的組織、パグウォッシュ会議の評議員も務める。専門は核軍縮・不拡散政策。70歳。

(2022年1月22日朝刊掲載)

どうみる 核兵器禁止条約発効1年 <上> 国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん

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