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連載・特集

被爆者の足取りをたどりたい。東京の学生2人が広島へ【後編】「意識高い系」と言われても

 坪井直さんの被爆当時の足取りをたどった慶応大3年の高橋悠太さん(21)と上智大2年徳田悠希さん(20)。2人は、核兵器廃絶を目指す活動に取り組む若者グループ「KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)」(東京)のメンバーです。キラキラな東京でキャンパスライフを送る2人が、どうして平和活動に取り組んでいるのか、その理由を聞きました。(湯浅梨奈)

徳田さんの場合。きっかけは中学の修学旅行

 東京都練馬区出身の徳田さんは、広島と縁もゆかりもありません。それでも今は、核器禁止条約に賛同してもらおうと、国会議員や地方議員たちに働き掛けるロビー活動を続けています。

 徳田さんが「原爆」について詳しく知ったのは、中学3年の修学旅行で広島に訪れたことがきっかけでした。

 当時、徳田さんは悩みを抱えていて、自分の傷ついた気持ちを人に話すのがしんどいと感じていたそうです。そんな自分に向かって、被爆証言者はつらい記憶を思い出し、苦しそうに話を続けました。「何も考えずに生活しているうちに、あなたたちにも核兵器が使われるかもしれないよ」とメッセージを添えて。

 徳田さんは「子どもたちの平和のために、自分の傷をえぐりながら話す姿が忘れられません」と話します。

 クラスメートの中には、証言を聞かずに寝ている子もいました。「この子たちと同じようにしていたらいけない。被爆者が投げ掛けてくれる思いを避けたくない」と感じたそうです。

 心に刺さった体験だったのですが、徳田さんは東京が拠点。周りには核兵器や原爆について話す人たちがいませんでした。何をどうすればいいか分からないうちに、気付けば時間が過ぎていました。

 高校2年の修学旅行で長崎へ。ふたたび被爆者から証言を聞き、「結局、自分は何もしていなかった」と気付きます。東京に戻り、平和関係のシンポジウムに参加してみました。でも、話を聞くのは受け身。「結局、じゃあ平和のために何をしたらいいのか、わかりませんでした」

 転機は大学入学後の2020年8月。平和活動に取り組む若者たちがオンラインで交流するイベントをインターネットで見つけて、参加しました。広島や長崎だけでなく東京で活動する高橋さんたち同世代の存在を知りました。「何かしたいけど、何をしたらいいかわからない」。思い切って気持ちをぶつけたのが始まりでした。

 その後、2020年9月に核廃絶をテーマにしたオンラインフォーラム「9・26核兵器廃絶のための国際デーオンラインシンポジウム」の運営に参加しました。徳田さんは、イベントをユーチューブで生配信するカメラ係を担当。国連広報センター所長や、通販大手ジャパネットたかた創業者の高田明さんたちが核廃絶について語る様子を、全国の視聴者に届けました。自分のカメラワークで、目の前の議論が配信される―。これまで受け身だった自分が行動する側になる手応えを感じた瞬間でした。

 核兵器禁止条約が発効した2021年1月ごろからは、条約に賛同する議員を増やす活動に携わります。条約についても勉強し、探究心が膨らみました。

 地方議員と直接面会してみると、「なんて腰が重い人なんだ!」と思うことも。それでも、仲間みんなで「核兵器をなくすことは大切なんだ、伝えなきゃ」と思って活動していると言います。

 友達には「何でそんなに核問題に力を入れてるの?」と不思議に思われることもあるそうです。「意識高い系」と理解されにくいことも多い。それでも、活動報告をインスタグラムのストーリーズに載せ続けていると、「最近頑張ってるね」「何か面白いことしているね」と興味を持ってくれる人たちが増えているそうです。

 活動のモチベーションは「仲間の存在」。共通の問題意識を持った人とつながり、その問題にダイレクトに関わるようになりました。「岸田首相に近い人たちに面会するなど、今やっていることは確実に、一つ一つに意味がある。広島にゆかりがなくても、どんな入り方でも、平和や原爆、核問題に関わることができるんだよって。そういったことを自分は伝えていきたいです」

高橋さんの場合。平和活動は「楽しいから」

 「KNOW NUKES TOKYO」を2021年5月に立ち上げ、共同代表を務める高橋さん。平和活動に取り組む理由を尋ねると、「楽しいからですよ」と即答しました。「他の学生が別のサークルに入るのと全く同じような感覚です」

 高橋さんは出会う楽しみがあると言います。

 「こういった活動をしていると人間的な魅力がある人たちと出会えるんです。被爆した方には、命からがら逃げたり、目の前で人が死んでいくのを助けられなかった人たちが多くいます。隣にいる人の傷が誰よりもわかるんじゃないでしょうか」

 高橋さんにとって被爆者たちは、深く人生を考える人たち。そんな人たちとつながり、一緒に食事をしたり、社会問題を話し合ったり。仲間になるのは楽しいそうです。声を上げ、一緒に行動して何か変化が生まれるから。

 活動に関わっていない同世代の反応はどうなのか、高橋さんに聞きました。

 「都会では、社会問題に声を上げることはナチュラルです。気候変動とか、ジェンダー問題だとか…。田舎よりも理解を得られやすいです。でも、壁は高い。大学の友達には、『おまえのやってる活動はすごいと思うけど、核兵器廃絶は夢物語だよね』と言われて打ちのめされました」

 ただ、福山市から上京した理由も「理解されにくいこと」にあるそうです。

 「広島は被爆地だから、核廃絶はやっぱり大事だよねと、賛同を得られやすい。でも、他の地域では、きょう、明日の国を守ることが大事。だから『核抑止が必要だよね』ってなる。賛同を得られにくい東京を拠点に、発信していかないと」

 毎年8月6日、9日にあの日を振り返る被爆地の広島・長崎と、首都東京との距離は「遠い」と感じているそうです。核が使われるとどうなるか。「その実相と現実の問題がリンクしにくい」と高橋さんは言います。それでも、世界には同じように行動している若者たちがいます。「そんなに簡単ではないかもしれませんが、核廃絶はできると僕たちは信じています。自分たちの手で作っていくんです」

記者から

 核兵器廃絶という難しい課題に向かって、楽しそうに活動する2人がどこかうらやましく見えました。「真面目に堅苦しく」というよりも「楽しく前向きに」という姿勢が、何よりもモチベーションになっているようでした。

 核廃絶や原爆の影響への理解を得るには、必ず多くの壁にもぶつかるはずです。でも、共通の問題意識を共有する仲間の存在が、とても大きな力になっていることも感じました。

 記者(28)は今、原爆や平和をテーマに取材を重ねていますが、ポジティブな同世代の試みをもっと伝えていきたいと思っています。平和を考えることは未来へのチャレンジ。そんな感覚が、記事を通じてもっと広く共有できたらうれしいです。

★高橋さんたちが制作した坪井直さんの証言集は、日本語と英語版をインターネット上でも公開されています。

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